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第26回(2023年) ルーラル・スタジオ(アメリカ)

[ 選考担当 ] ヒラリー・ロダム・クリントン国際顧問(アメリカ)

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 ルーラル・スタジオは、米国アラバマ州東部のオーバーン大学が建築学部のプログラムとして、州西部ニューバーン(人口180人弱)で運営する設計施工建築事務所である。

 サミュエル・モックビー教授とデニス・ルース教授が1993年に創設した。安全で堅固な建物を安価で提供することを目的に、「ブラックベルト」と呼ばれる貧困地域で、これまでに計1,200人以上の学生に建築という職業の社会的責任を教えながら、地域の居住空間、生活環境の改善を実現してきた。

 「学生を教室から解き放って、普通の人々と触れ合わせる。学生のエネルギーを使い、地域で困っている人たちを助けることができるかもしれないと考え、創設された。当時の建築教育、建築という職業に対する批判でもあった」と、20年前から指導しているアンドリュー・フリーアー所長(オーバーン大学教授)は話す。

 プログラムの特徴は、設計だけでなく、学生が実際に建築作業に携わることにあり、それが特別な学習体験となる。小さな公園や教会に始まり、消防署、図書館などの公共事業へと、環境に配慮した持続可能な220のプロジェクトに取り組み、地域住民との間で信頼を築いてきた。「地元の人々が積極的に声を上げられるように努めてきた。小さなプログラムが成功したのは、誰もやらないようなプロジェクトに取り組んできたからだ」(フリーアー所長)。

 住宅プロジェクトでは、2万ドルで建設するという「20Kプロジェクト」を20年間続けている。手頃な価格の試作品を作ろうというアイデアに始まり、個性的な家よりも手頃な価格の家を設計する義務があると思い至った。現在は2万ドルで建てることは難しくとも、「手頃な価格で、美しく、耐久性があり、経済的で、住みやすい家」を提供するという、理想の住宅倫理観を打ち出している。

 近年は、「住宅という土台の上に、他にどのような手伝いができるか」という発想で、食料、排水、教育、インターネットなど、社会の基本に対する不安に目を向け、野菜の自給自足や排水の浄化プログラム、住宅の管理費用を予測することで光熱費のむだを省くというプロジェクトにも取り組んでいる。

 こうした活動は世界的に評価され、フリーアー所長は2023年4月、トーマス・ジェファーソン・メダル(建築)を受賞した。