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第24回(2021年) 中央修復研究所付属高等養成所(イタリア)

[ 選考担当 ] ランベルト・ディーニ国際顧問(イタリア)

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©️ archivio Paola Ghirotti

 第二次世界大戦が勃発した直後の1939年、戦火にさらされたイタリアの文化・芸術遺産の保存と修復を目的に中央修復研究所(ICR)が設立された。1941年から修復のプロを養成するコースが本格的にスタートし、高等養成所(SAF)へと発展した。

 現在は、ローマと南イタリア・マテーラ(2015年開校)の2校に計110人が在籍している。毎年、18歳以上の25人が入学するが、高校卒業もしくは同等の資格が必要。外国人はイタリア語を使いこなせることが条件で、全体の15%を占める。

 5年間の修士課程では、修復対象物を構成する素材を理解するために、無機化学、有機化学、生物学、物理学なども勉強する。化学教師のマルチェッラ・イオエレ氏は「ICRの素晴らしい点は、修復士、歴史家、化学者、物理学者、生物学者、動物学者、人類学者がチームとして一緒に働くこと」と語る。

 ICRのアレッサンドラ・マリノ所長は、「修復士は、作品がその時代や現在の歴史的・文化的背景にどのように適合しているかを理解しなければならないし、素材面でも優れた認識を持つ必要がある。正確な作業を可能にする手作業の能力と専門知識が求められる」と、修復士に必要な資質を説明する。

 SAFのフランチェスカ・カパンナ所長によると、学生たちは、ICRの研究室や、国や教会、個人や財団の敷地内の工事現場などでの作業を通じて理論と実践を学ぶ。各種の現場実習がコース全体の60%を占めるという。他国での国際協力プロジェクトにも積極的に参加し、ヨルダンのウマイヤード宮殿の壁画修復や、最近ではギリシャの水没したローマ時代の別荘を修復・復元する水中作業も行った。

 開校以来約900人が卒業し、イタリア内外の文化・芸術遺産の保存修復に携わってきたほか、ルーヴル美術館など欧米の美術館でも修復士として活躍。30年ほど前には日本人2人も卒業し、現在はそれぞれ画家になっているという。

 同校は文化省の管轄下にあり、年間運営費(35万ユーロ)のほとんどを同省が出資。また、マテーラ校は地元の州からも資金援助を受けている。学生たちも、イタリアの公立大学の学生と同等の額(一人年間最大2700ユーロ)を負担。今回の奨励金は、「今後2年間の学生による共同研究プロジェクト30件の助成に使う」(カパンナSAF所長)という。