第23回(2019年) デモス(フィルハーモニー・ド・パリ)= フランス
[ 選考担当 ] ジャン=ピエール・ラファラン国際顧問(フランス)
デモスは、パリ管弦楽団の本拠地、フィルハーモニー・ド・パリ(ローラン・ベイル館長)が運営する音楽教育プログラム。2010年に発足してから、クラシック音楽に触れる機会の少ないフランスの貧困地域や地方の7歳から12歳の子供を対象に、無料で楽器を貸し出し、週4時間のレッスンを3年間行う。15人構成のグループが7つあり、その105人がオーケストラを形成し、6月末にコンサートを開催する。
1グループごとに2人のプロの音楽家、2人のソーシャルワーカーとボランティアが組みになって指導する。音楽の技術面の指導だけではなく、子供の精神面のケアや人格育成にも力を注ぐためだ。
もともとは、ベネズエラの貧困地域の子供たちをクラシック音楽の練習、演奏を通じて教育する制度、エル・システマ(1975年発足)の活動にヒントを得た。エル・システマは2006年に若手芸術家奨励制度の対象団体に選ばれている。
ベイル館長は「恵まれない地域に住む子供たちとの絆の重要性、ベネズエラの実験が示した教育界全般への好影響などを考えて結成した。私たちは楽器を弾く子供たちと先生の間に交わされる音楽の伝達の仕方に重きを置いている」と語る。
2015年以降はデモスの活動をフランス全土に拡大し、現在4000人近くが参加、全国に38のオーケストラを組織している。さらに、2022年にオーケストラの数を60に倍増することも計画している。
元人気サッカー選手で、フランス代表の歴代最多出場記録を持つリリアン・テュラム氏がデモスの後援会長を務めていることも、子供たちや父母の関心を高めている。デモスの理念に着想を得て、フィルハーモニー・ド・パリの協力のもと、デモスの一部生徒もエキストラで出演した映画『メロディ』(邦題『オーケストラ・クラス』)も2017年に公開され、デモス人気を後押しした。
デモスで3年間を過ごした50%の子供が音楽の勉強を続けており、そうした子供達には引き続き楽器を無料で貸し出す。年間運営費800万ユーロ(10億円)の3分の1は政府、3分の1は民間、そして残りの3分の1は地方自治体からの資金で賄っている。