トップ 若手芸術家 奨励制度 奨励対象⼀覧 ズゥカック劇団・文化協会(レバノン)

第21回(2017年) ズゥカック劇団・文化協会(レバノン)

[ 選考担当 ] ウィリアム・ルアーズ国際顧問 (アメリカ)

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 イスラエル軍のレバノン侵攻があった2006年、若手女優のマヤ・ズビブさん(36歳)らが、学校に避難した子供や女性に対し演劇療法を用いて社会心理的な支援活動を始めたのをきっかけに、ベイルートで設立した。

 その後、演劇療法の手法を芸術として発展させるため、地元のアーティストが自由に利用できる交流の場、リハーサルや創造の場として、2008年にスタジオをオープン。このスタジオで演劇、ダンス、教育などに関するワークショップを開催したり、若手アーティストの指導を行ったり、海外から招聘したアーティストの創造スペースとしても利用している。

 レバノン国内には200万人の難民がいるといわれるが、「演劇を通して個人に力を与え、自分自身を表現し、集団への関わりを持たせる」(ズビブさん)ことを目的に、パレスチナ人難民、シリア人難民、スーダン人難民、イラク人難民、さらには家庭内暴力の被害者などを対象に社会心理的な支援活動を続けている。

 こうした活動以外に、劇団として独自の新作劇にも取り組み、例えば、レバノンには学校で教える現代史の教科書がないため、「レバノンの歴史」を扱った演劇をレバノン各地で上演。上演後は舞台を観客にも開放し、それぞれの立場で歴史を話し合う対話集会にしている。

 今年4月には、スイスのドロソス財団から受けた4年連続の資金援助を基に、劇団本部を広いビルに移した。これによってスタジオ、リハーサル室を拡充し、11月には100人収容の付属劇場も開設する。将来はこの劇場収入も活動資金に充てる計画。

 ズビブさんは「劇団は新局面を迎えた。若者に演劇作品を作るための手段や社会心理的な支援技術を教えるとともに、若い観客を増やしていきたい」と意気込んでいる。

 現在、ズビブさんら30歳代のアーティスト7人を中心に、管理、渉外の担当、舞台美術、デザインなどの担当を含め全体で25人が所属している。

 レバノン政府からは芸術に対する助成がないため、年間の運営費は全て外部からの資金援助で賄う。援助額は年によって異なるが、8万−20万ドル(880万−2200万円)という。ブリティッシュ・カウンシル(英)、ゲーテ・インスティトゥート(独)、アンスティチュ・フランセ(仏)からも援助を受けている。