第20回(2016年) ファイブ・アーツ・センター(マレーシア)
[ 選考担当 ] 中曽根康弘国際顧問 (日本)
多様な民族と文化・言語(マレー語、英語、中国語)が共存するマレーシアで、1984年に、東南アジアを代表する演出家だったクリシェン・ジット氏 (2005年没)が、同じく演出家のチン・サン・スーイ氏、パートナーでダンサー・振付家・教育者のマリオン・ドゥ・クルーズさん(当時30歳)と共にク アラルンプールで結成したアーティスト集団。創設メンバーのドゥ・クルーズさんは「マレーシアの物語を実験的な方法で伝える機会と場を提供するのが目的 だった」と振り返る。
その狙い通り、過去30年間、演劇、ダンス、音楽、児童劇、ビジュアル・アーツの5分野を中心に、同センターが軸となっ て、実験的な芝居やダンス公演、展示会やインスタレーション、現代ガムラン音楽の演奏会、子供向けや演出家のためのトレーニング・プログラムなど、多彩で 広範囲な芸術活動を展開しながら、地域社会を刺激し、若手アーティストを支援してきた。
現在、同センターには、世代、分野が異なる13人(60歳代4人、50歳代4人、40歳代2人、30歳代3人)のメンバーが所属。メンバーは世代間の“衝突”を繰り返しながら、各自が独自の芸術活動を行っているが、最近は30代、40代のメンバーが活動の中心となっている。
10年前にメンバーとなったプロデューサーのジューン・タンさん(42歳)は、新進アーティストのプログラムを担当。「センターは、新しい芸術形態を試してみたい人の発表の場となる。多様性が強みで、マレーシア社会全体を映し出したい」と語る。
著名な演出家、マーク・テ氏(35歳)は最年少メンバーだが、「今後は若手アーティスト、若手プロデューサー、若手ライター、若手思想家に対して、ダンス、演劇、映画、新メディアなど、あらゆるアートの分野で基盤を提供したい。同時に、代々受け継いできた古い歴史や伝統的なものについても携わっていきたい」と意気込む。
同センターの年間予算30万リンギット(約770万円)は政府の助成金と民間企業の資金援助で賄う。20年前から日本人アーティストとのコラボレーションも実施、日本の国際交流基金も活動を支援している。近年はマーク・テ氏の演劇などをアジア、欧州各国で公演。2006年にはマレーシアの衛星テレビ放送局と提携し、「クリシェン・ジット・アストロ基金」を設立、マレーシア在住のアーティストのみならず、マレーシアの文化発展に貢献する人に対しても経済的支援を行っている。