トップ 若手芸術家 奨励制度 奨励対象⼀覧 ヤンゴン映画学校(ミャンマー、本部=ドイツ・ベルリン)

第19回(2015年) ヤンゴン映画学校(ミャンマー、本部=ドイツ・ベルリン)

[ 選考担当 ] クラウス=ディーター・レーマン国際顧問 (ドイツ)

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イギリス生まれの英国系ビルマ人映画製作者、リンジー・メリソンさんが2005年、自身が住むベルリンに「ヤンゴン映画学校」(YFS)を設立した。英国系ビルマ人の母親が、生まれ故郷ミャンマーに帰る旅に同行してドキュメンタリー映画を製作したのが縁で、ヤンゴンでドキュメンタリーのワークショップを開催したのが、学校開設のきっかけとなった。

ヤンゴン市内に活動拠点の校舎を構え、そこへ欧米諸国から経験豊富な映画製作者を定期的に派遣。ドキュメンタリー映画を中心に監督、撮影技術、シナリオ、ポストプロダクション(撮影後作業)などの分野を無料指導し、これまでに約160人が受講した。メリソン校長は年4回ほど、ベルリンからヤンゴンの校舎に出かける。

学生、卒業生が製作したドキュメンタリー映画の中には、国際的な映画祭で賞を受けた作品も多数あるが、2010年までの軍事独裁政権下での監視の目は厳しかったという。2008年のサイクロンで13万人以上が命を失った時、YFSの学生と卒業生が直ちにデルタ地域に入って被害状況と被災者の声を収録し、ドキュメンタリー映画『ナルギス − 時間が止まった時』を製作した。しかし、国内での上映は禁止された。

「当時、撮影は違法でした。政府は被災者に迅速な援助をすることができず、災害を隠そうとしたのです。私たちはサイクロンの爪痕を撮影して、非常に心を打つ映画を作りました。最も誇らしい映画です」とメリソン校長。海外で多くの賞を獲得し、2012年に初めて国内の映画祭でも上映された。

YFS一期生で、後輩に撮影技術を教えるティン・ウィン・ナインさん(40歳)は『ナルギス』のカメラを担当したことなどで、軍事政権からにらまれ、2009年から3年間、国境近くのタイ北部に逃げていた。その体験を基に現在、新作ドキュメンタリーを監督・製作中だ。他の卒業生も「ドキュメンタリーを通じてミャンマーの実情を内外に知らせるのが私たちの役割」と語る。

学校運営の年間予算60万ユーロ(8100万円)は、主に欧州連合(EU)、ゲーテ・インスティトゥート、フィンランド・メディア通信財団などからの寄付で賄っている。若手芸術家奨励制度の奨励金は、ドキュメンタリー長編映画の製作費用に充てるという。

ゲーテ・インスティトゥートの支援でビルマ時代の映画のデジタル復刻版も担当。卒業生がプロダクション会社「ヤンゴン映画サービス」を設立し、国際的な非政府組織などのドキュメンタリー製作も請け負う。YFS本部をベルリンからヤンゴンに移すのが今後の課題だという。

ミャンマーでは2011年からの民政移管後、メディアの自由化・民主化はある程度進んではいるが、メリソン校長は「政府は、この機会にYFSがミャンマーの創造的メディア産業を担うパートナーになり得ると考えてほしい」と語っている。