第29回 高松宮殿下記念世界文化賞 受賞者 発表 / 第21回若手芸術家奨励制度 発表
世界の優れた芸術家に贈られる高松宮殿下記念世界文化賞(公益財団法人 日本美術協会主催)の第29回受賞者が、12日(日本時間12日23時30分 報道解禁)、ニューヨーク、ロンドン、パリ、ローマ、ベルリン、東京の各都市で発表されました。
今年の受賞者には、写真、ビデオ・インスタレーション、映画で現代イスラム社会における女性のあり方を詩的かつ刺激的に描写してきたニューヨーク在住のイラン人女性映像作家、シリン・ネシャット。廃材の金属ボトルキャップを銅線で編み上げた巨大な「メタル・タペストリー」などで知られ、ナイジェリアを拠点に活躍するガーナの彫刻家、エル・アナツイ。その土地の歴史的背景を重視しながら、環境と調和させて都市空間に溶け込む建築物をデザインするスペインの建築家、ラファエル・モネオ。西アフリカ固有のリズムをアレンジし、民族音楽や欧米ポップ・ミュージックのエッセンスを取り入れ、「ワールド・ミュージック」ブームを牽引してきたセネガルの作詞家・作曲家・歌手、ユッスー・ンドゥール。抜群のリズム感とテクニックで高い評価を得たクラシック・バレエと現代バレエに加え、演劇、映画、テレビでも活躍している、ラトビア生まれのアメリカのバレエダンサー・振付家・俳優、ミハイル・バリシニコフの各氏が選ばれました。
また、同時に発表される第21回若手芸術家奨励制度の対象団体には、2006年から演劇療法を利用して演劇、ダンス、教育などのワークショップを開催し、難民キャンプなどレバノン各地で社会心理的な支援活動を行っているベイルートの演劇集団「ズゥカック劇団・文化協会」が選ばれました。
各部門受賞者は、下記の通りです。
第29回 高松宮殿下記念世界文化賞 受賞者
■ 絵画部門 シリン・ネシャット (イラン/アメリカ)
■ 彫刻部門 エル・アナツイ (ガーナ)
■ 建築部門 ラファエル・モネオ (スペイン)
■ 音楽部門 ユッスー・ンドゥール (セネガル)
■ 演劇・映像部門 ミハイル・バリシニコフ (アメリカ/ラトビア)
第21回 若手芸術家奨励制度 対象団体
■ ズゥカック劇団・文化協会 (レバノン)
授賞式典は、日本美術協会総裁の常陸宮殿下、同妃殿下ご臨席のもと、10月18日(水)に東京・元赤坂の明治記念館で行われ、5部門の受賞者には、それぞれ顕彰メダルと感謝状、賞金1500万円が贈られます。若手芸術家奨励制度の対象団体には、9月12日(火)、ニューヨークでの受賞者発表の席上、奨励金500万円が贈られました。
絵画部門 Painting
シリン・ネシャット Shirin Neshat
1957年3月26日、イラン・カズヴィン生まれ
ニューヨークを活動拠点とするイラン人女性映像作家。写真、ビデオ・インスタレーション、映画とさまざまな表現手段を駆使し、現代イスラム社会を生きる女性たちの政治的、社会的、心理的に抑圧された状況を描写。イランだけに留まらず普遍的な問題へと昇華し、女性のあり方を模索してきた。17歳で米国へ留学、大学で美術を学ぶ。1979年のイラン革命で疲弊した故郷の背景にあるものを見極めようと、1993年頃から本格的に芸術活動をスタート。代表作は写真連作《アラーの女たち》(1993−97)、ビデオ・インスタレーション『荒れ狂う』(1998)など。2005年ヒロシマ賞を受賞。初の長編映画監督作『男のいない女たち』(坂本龍一が音楽を担当)は2009年ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)を受賞した。今年5月、「初めてアメリカ文化に焦点を当てた」という映画・写真の『ドリーマーズ』展を開催した。
彫刻部門 Sculpture
エル・アナツイ El Anatsui
1944年2月4日、ガーナ・アニャコ生まれ
アフリカの伝統的イメージを大胆な手法で発信する彫刻家。金属のボトルキャップを銅線で編み上げた、ガーナの伝統的な織物を思わせるメタル・ワークで、消費文化が生む余剰廃棄物の再生利用も探求してきた。1975年からナイジェリアに拠点を移す。1980年以降、数々の展覧会に出品し、欧米を中心に高く評価される。廃材とは思えない、新たな姿に再生されたメタル・ワークは見る人を圧倒する。顧みられることのない素材を使うことで、意義を高め、尊厳の場を与えるとともに、深淵なメッセージも込めている。「アートとは環境から生まれるもので、誰かが“新しく作る”ものではない」が持論。2010−11年、国立民族学博物館、神奈川県立近代美術館などで日本初の大規模回顧展。2015年、ヴェネツィア・ビエンナーレで「栄誉金獅子賞」を受賞。ガーナから世界文化賞の初受賞。
建築部門 Architecture
ラファエル・モネオ Rafael Moneo
1937年5月9日、スペイン・ナバラ州トゥデラ生まれ
スペインを代表する建築家。その土地の歴史的背景を重視しながら、環境と調和させて都市空間に溶け込む建築物をデザインする。スペイン・メリダの『国立古代ローマ博物館』(1986)で注目される。マドリードの『アトーチャ駅・新駅舎』(1992)、米ロサンゼルスの『天使のマリア大聖堂』(2002)、『プラド美術館新館』(2007)など国内外で多数のプロジェクトを成功させる。プラド美術館では新旧の建物を見事に融合させた。建築物は都市の一部に組み込まれることが重要な意味を持つと考える。自身のスタイルを強調することはないが、洗練されたデザインは作品を特徴づける。ハーバード大学で教鞭を執るなど教育者、理論家としても活躍。二度来日し、日本絵画や寺院などの伝統建築に魅了されたという。1996年プリツカー賞、2003 年王立英国建築家協会ゴールドメダルを受賞。
音楽部門 Music
ユッスー・ンドゥール Youssou N’Dour
1959年10月1日、セネガル・ダカール生まれ
ダカール出身の作詞家・作曲家・歌手。グリオ(語り部)の家系に生まれ、12歳から音楽活動を始める。西アフリカ固有のリズム「ンバラ」をモダンにアレンジし、伝統音楽にさまざまな民族音楽や欧米ポップ・ミュージックのエッセンスを取り入れ、1980−90年代の「ワールド・ミュージック」ブームを牽引。1985年、ピーター・ガブリエルやポール・サイモンらが参加したアルバム『ネルソン・マンデーラ』で世界的アーティストの地位を築いた。2004年発表のアルバム『エジプト』でグラミー賞受賞。2011年、政治活動に専念するため音楽活動を一時停止したが、二年半後に復帰。日本ではホンダ・ステップワゴンのCMソングで有名だが、2006年に10年振りの来日公演。今年4月、最新アルバム『アフリカ・レック』が日本でも発売された。セネガルから世界文化賞の初受賞。
演劇・映像部門 Theatre/Film
ミハイル・バリシニコフ Mikhail Baryshnikov
1948年1月27日、ラトビア・リガ生まれ
抜群のリズム感とテクニックで高い評価を得たクラシック・バレエと現代バレエに加え、演劇、映画、テレビでも観客を魅了してきた。旧ソ連のバレエ団「キーロフ・バレエ」のトップダンサーに上り詰めたが、1974年、「さまざまなバレエのスタイルを勉強したい」と米国へ亡命。「アメリカン・バレエ・シアター」(ABT)に入団する一方、映画俳優にも挑戦し、『愛と喝采の日々』(1977)で、アカデミー助演男優賞にノミネートされた。その後、ニューヨーク・シティ・バレエ団を経てABTの芸術監督に就任。1998年に坂東玉三郎との共演を実現させた。2005年にニューヨークに設立した「バリシニコフ・アーツ・センター」を拠点に、若手芸術家の育成にも尽力。最近は、一人芝居『ブロツキー/バリシニコフ』、『ある男への手紙』で賞賛を浴びた。今年4月、生まれ故郷のラトビアから市民権を贈られた。
第21回 若手芸術家奨励制度
2017 GRANT FOR YOUNG ARTISTS
選考: ウィリアム・ルアーズ国際顧問 (アメリカ)
ズゥカック劇団・文化協会(レバノン)
Zoukak Theatre Company and Cultural Association (Lebanon)
イスラエル軍のレバノン侵攻があった2006年、若手女優のマヤ・ズビブさん(36歳)らが、学校に避難した子供や女性に社会心理的な支援活動を始めたのをきっかけに、ベイルートで設立。「演劇を通して個人に力を与える」という演劇療法の手法を用いながら、難民キャンプなどレバノン各地で活動。スタジオでダンスなどのワークショップや若手アーティストの指導も行っている。「レバノンの歴史」などの新作劇にも取り組み、海外公演も行う。ズビブさんら30歳代のアーティスト7人を中心に、管理、渉外の担当、舞台美術、デザインなどの担当を含め全体で25人が所属。今年4月からスイスの財団の資金援助で劇団本部を拡充し、11月から付属劇場 (100人収容) も開設する。ズビブさんは「劇団は新局面を迎えた。若者に演劇作品を作るためのツールを教え、若い観客を増やしていきたい」と意気込んでいる。