第28回 高松宮殿下記念世界文化賞 受賞者 発表 / 第20回若手芸術家奨励制度 発表
世界の優れた芸術家に贈られる高松宮殿下記念世界文化賞(公益財団法人 日本美術協会主催)の第28回受賞者が、9月13日(日本時間13日18時)、東京、ニューヨーク、ロンドン、パリ、ローマ、ベルリンの各都市で発表されました。
今年の受賞者には、自らを被写体としてさまざまな人物に変身させ、周囲の環境も創出した自画像的写真を制作するアメリカのシンディ・シャーマン。剥製、ぬいぐるみ、布、刺繍、編み物など身近な素材を用いて、人間の相反する複雑な内面を浮き彫りにするフランスのアネット・メサジェ。コンクリートやスチールの素材の魅力を生かした斬新な構造が特徴で、大阪万博ブラジル館を設計したブラジルの建築家、パウロ・メンデス・ダ・ホッシャ。スタンダードな曲はもとより、ロシア・東欧の作曲家から近・現代の作品まで積極的に紹介してきたラトビア出身のヴァイオリニスト、ギドン・クレーメル。信仰、誘惑、罪や贖罪など、道徳や宗教的なテーマを通じて社会の暗部や人間精神の奥底を描く映画で知られるアメリカ映画界の巨匠、マーティン・スコセッシの各氏が選ばれました。
また、同時に発表された第20回若手芸術家奨励制度の対象団体には、多様な民族と文化・言語が共存するマレーシアで、演劇、ダンス、音楽、児童劇、ビジュアル・アーツの5分野を中心に、30年間にわたって地域社会を刺激しながら、若手アーティストを支援する芸術活動を展開してきた「ファイブ・アーツ・センター」が選ばれました。
各部門受賞者は、下記の通りです。
第28回 高松宮殿下記念世界文化賞 受賞者
■ 絵画部門 シンディ・シャーマン (アメリカ)
■ 彫刻部門 アネット・メサジェ (フランス)
■ 建築部門 パウロ・メンデス・ダ・ホッシャ (ブラジル)
■ 音楽部門 ギドン・クレーメル (ラトビア/ドイツ)
■ 演劇・映像部門 マーティン・スコセッシ (アメリカ)
第20回 若手芸術家奨励制度 対象団体
■ ファイブ・アーツ・センター (マレーシア)
授賞式典は、日本美術協会 総裁の常陸宮殿下、同妃殿下ご出席のもと、10月18日(火)に東京・元赤坂の明治記念館で行われ、5部門の受賞者には、それぞれ顕彰メダルと感謝状、賞金1500万円が贈られます。若手芸術家奨励制度の対象団体には、9月13日(火)、東京での受賞者発表の席上、奨励金500万円が贈られました。
絵画部門 Painting
シンディ・シャーマン Cindy Sherman
1954年1月19日、アメリカ・ニュージャージー州グレン・リッジ生まれ
1980年代、自らを被写体としてさまざまな人物に変身させ、映画のワン・シーンを思わせる白黒写真作品《アンタイトルド・フィルム・スティル》で一躍注目を浴びた。周到なロケハンや周囲の環境も創出して写される自画像的写真はコンセプチュアル・アートとして位置づけられる。作品制作はアシスタントを使わず、すべて一人でこなす。ホラー映画などの映像作品も撮る。「グロテスク」とも評される作品も多く、見る側の議論を呼ぶが、「見る人がそれぞれ違うストーリーを思い浮かべてくれることこそ、私の願うこと」と歓迎する。2012年にMoMAで大規模回顧展を開催。2015年にはマリア・カラスが使用した衣装をまとい、オペラ映画『プリマドンナ』に出演。今年は5年振りの新作として、1920年代の女優に扮した写真20点を二カ月で制作、発表した。
彫刻部門 Sculpture
アネット・メサジェ Annette Messager
1943年11月30日、フランス北部ベルク=シュル=メール生まれ
1970年代から身近な小物や雑誌、日用品などの日常の素材を使った作品を創作。1982年には、写真モンタージュとファンタジーを融合させた作品群《キマイラ》シリーズを発表した。その後、布、刺繍、編み物といった女性らしい素材と、動物のはく製や人体のパーツ写真を融合させた作品で注目を浴びる。既存のスタイルにとらわれない斬新な視点で、人間の相反する複雑な内面を浮き彫りにする。アウトサイダーとして「権威」への挑戦を続けるとともに、最近はフェミニズム運動をテーマにメッセージ性のある作品にも取り組んでいる。2005年にヴェネツィア・ビエンナーレ金獅子賞を受賞。2008年に森美術館で日本初の大規模個展『アネット・メサジェ:聖と俗の使者たち』を開催。浮世絵師・歌川国芳の手法を参考にするなど日本文化にも造詣が深い。
建築部門 Architecture
パウロ・メンデス・ダ・ホッシャ Paulo Mendes da Rocha
1928年10月25日、ブラジル・エスピリトサント州ヴィトーリア生まれ
2004年に世界文化賞を受賞した、ブラジルを代表する建築家、オスカー・ニーマイヤーに次いでブラジル二人目の受賞。サンパウロのマッケンジー・プレスビテリアン大学を卒業後、早くから頭角を現し、29歳で手掛けた『パウリスターノ・アスレチック・クラブ』をはじめ、『サンパウロ州立美術館』改修、『ブラジル彫刻美術館』、パトリアルカ広場再開発の『ポルティコ』など、コンクリートやスチールの素材の魅力をそのまま生かし、空間を最大限に利用した斬新な構造が特徴。「内部と外部の理想的な親和状態」を追求し、土地柄や歴史、景観などを総合的に勘案して設計する。ポルトガル・リスボンの『国立馬車博物館』(2015) はブラジル以外で初の大規模建築。1970年の大阪万博で『ブラジル館』を設計した。2006年のプリツカー賞受賞もニーマイヤーに次いでブラジル二人目。今年のヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展で金獅子賞を受賞した。
音楽部門 Music
ギドン・クレーメル Gidon Kremer
1947年2月27日、ラトビア・リガ生まれ
ラトビア(旧ソ連)のリガ出身(ラトビア・ドイツ二重国籍)。両親と祖父がヴァイオリニストという音楽一家で育つ。16歳で国内の音楽コンクールで優勝。1969年パガニーニ国際、1970年チャイコフスキー国際の各コンクールで一位となる。1976年のザルツブルク音楽祭でヘルベルト・フォン・カラヤンと共演、世界のトップ・ヴァイオリニストの地位を確立する。ニコラウス・アーノンクール、レナード・バーンスタイン、小澤征爾ら約500人の指揮者と共演し、120枚以上のアルバムを発表。一方で、アルフレッド・シュニトケら旧ソ連の現代作曲家や、アルゼンチンのタンゴ奏者アストル・ピアソラの作品を取り上げ、世界に紹介する。オーストリアの「ロッケンハウス音楽祭」、バルト3国の室内楽団「クレメラータ・バルティカ」の創設など若手演奏家の育成に尽力。1977年の初来日公演以降、日本各地で公演している。
演劇・映像部門 Theatre/Film
マーティン・スコセッシ Martin Scorsese
1965年2月25日、フランス・パリ生まれ
1970年代初めからアメリカ映画界の新進として注目された。生まれ育ったニューヨークを舞台に、暴力や裏社会を描く映画が多いが、信仰、誘惑、罪や贖罪など、道徳や宗教的なテーマを通じて、社会の暗部や人間精神の奥底をあぶり出していくのが特徴。1976年に『タクシードライバー』でカンヌ映画祭パルム・ドール、2006年に『ディパーテッド』でアカデミー賞を初受賞。1970年代から90年代初めにかけてはロバート・デ・ニーロ、21世紀に入ってからはレオナルド・ディカプリオと組んだ作品が多い。1990年には映画の補修・保存のための非営利組織「映画財団」を設立。黒澤明監督の『夢』(1990)にゴッホ役で出演した。最近はテレビドラマも手掛ける。27年前から映画化を考えていたという遠藤周作原作の映画『沈黙』が今年11月か12月に公開される予定(日本は来年初めの予定)。
第20回 若手芸術家奨励制度
2016 GRANT FOR YOUNG ARTISTS
選考: 中曽根康弘国際顧問 (日本)
ファイブ・アーツ・センター(マレーシア)
Five Arts Centre (Malaysia)
多様な民族と文化・言語(マレー語、英語、中国語)が並存するマレーシアで、1984年に演出家のクリシェン・ジット氏(2005年没)、チン・サン・スーイ氏、ダンサー・振付家・教育者のマリオン・ドゥ・クルーズさん(当時30歳)が「マレーシアの物語を伝える機会と場を提供する」ために設立したアーティスト集団。演劇、ダンス、音楽、児童劇、ビジュアル・アーツの5分野を中心に、実験的な芝居やダンス公演、展示会、現代ガムラン音楽の演奏会、子供向けや演出家のためのトレーニング・プログラムなどを通じて、地域社会を刺激し、若手アーティストを支援する多彩な芸術活動を展開してきた。現在は創設メンバーのドゥ・クルーズさんを含む60歳代から30歳代までの世代、分野が異なる13人のメンバーが所属。年間予算30万リンギット(約770万円)は官民の資金援助で賄い、日本の国際交流基金も活動を支援している。アジア、欧州各国でも演劇を公演。若手アーティストへの支援と基盤提供に一段と指導的役割を果たすことが期待されている。