第27回 高松宮殿下記念世界文化賞 受賞者 発表 / 19回若手芸術家奨励制度 発表
世界の優れた芸術家に贈られる高松宮殿下記念世界文化賞(公益財団法人 日本美術協会主催)の第27回受賞者が、9月10日(日本時間10日18時)、ベルリン、ローマ、ニューヨーク、ロンドン、パリ、そして東京の各都市で発表されました。
今年の受賞者には、日本の前衛・ポップシーンを代表する存在として活躍し、「死と生」の視点から、今も質量ともに圧倒的な作品を作り続けている横尾忠則、医学から芸術に転じ、東洋的思想で「生命」を追求しながら、牛乳、花粉、米などを素材として制作するドイツのヴォルフガング・ライプ、新しい建築を周囲の景観や歴史的背景を損なわずに溶け込ませ、メタル・メッシュ(金属の編み目)を使うデザインが特徴のフランスの建築家ドミニク・ペロー、モーツァルトをはじめ、集中力と安定感、幅広い強弱のある演奏で、屈指の名声と評価を得ているロンドン在住のピアニスト内田光子、100年に一人のダンサーと称されながら、伝統に縛られない演技で新風を吹き込んだ世界最高のバレリーナで、大の親日家でもあるフランスのシルヴィ・ギエムの各氏が選ばれました。
また、同時に発表された第19回若手芸術家奨励制度の対象団体には、2005年にベルリンで設立され、活動拠点のミャンマー・ヤンゴンに欧米諸国から経験豊かな映画製作者を定期的に派遣、ドキュメンタリー映画の製作を中心に、これまで160人を無料指導してきた「ヤンゴン映画学校」が選ばれました。
各部門受賞者は、下記の通りです。
第27回 高松宮殿下記念世界文化賞 受賞者
■ 絵画部門 横尾 忠則 (日本)
■ 彫刻部門 ヴォルフガング・ライプ (ドイツ)
■ 建築部門 ドミニク・ペロー(フランス)
■ 音楽部門 内田 光子 (イギリス)
■ 演劇・映像部門 シルヴィ・ギエム (フランス)
第19回 若手芸術家奨励制度 対象団体
■ ヤンゴン映画学校 (ミャンマー、本部:ドイツ・ベルリン)
授賞式典は、日本美術協会 総裁の常陸宮殿下、同妃殿下ご出席のもと、10月21日(水)に東京・元赤坂の明治記念館で行われ、5部門の受賞者には、それぞれ顕彰メダルと感謝状、賞金1500万円が贈られます。若手芸術家奨励制度の対象団体には、9月10日(木)、ベルリンでの受賞者発表の席上、奨励金500万円が贈られました。
絵画部門 Painting
横尾 忠則 Tadanori Yokoo
1936年6月27日、兵庫県西脇市生まれ
1960年代からグラフィックデザイナーとして日本のポップシーンや前衛シーンを駆け抜け、その独自の画境は三島由紀夫、寺山修司らにも高く評価された。1980年代以降は「美術家」として絵画を主軸に創作を展開。1981年のいわゆる「画家宣言」後も、《滝》《Y字路》シリーズなど、夢と現、死と生を行き来する横尾芸術が進化。「死の側に立って、現実の生を見つめる」という視点に立ち、質量ともに圧倒的な作品を作り続ける。2012年には約3000点もの作品を収蔵する横尾忠則現代美術館(神戸市)が開館。2013年には豊島(香川県)に「豊島横尾館」もオープン。2014年にはパリのカルティエ現代美術財団に110点もの肖像画を出品した。作風やモチーフを変えながら、日本の大衆社会を随所に反映させ、旺盛な創作意欲はとどまるところを知らない。
彫刻部門 Sculpture
ヴォルフガング・ライプ Wolfgang Laib
1950年3月25日、ドイツ・メッツィンゲン生まれ
「生命」とは何かを東洋的思想で追求し、具現する芸術家。牛乳や花粉など、命を育み、それを次世代に橋渡しする物質を素材として用い、オブジェなどを制作する。大学で医学を学んだが、「現代医学は人間の身体についての自然科学にすぎない。大事なのは肉体だけではない」と、生や死、精神の問題も含めた生命の真髄を求め、24歳のときに芸術家へ転身した。両親がインド芸術・文化に興味を持っていた関係で、若いころから一家でインドに長期滞在した経験もあり、東洋の文化や思想に傾注。1975年、白い大理石板の表面をシャーレ状に削って牛乳を満たした《ミルクストーン》を発表して注目を集め、以降、自宅周辺の野山で採集したタンポポなどの花粉や、蜜蝋、米などを使った作品制作に精力的に取り組んでいる。世界各地で展覧会を開いており、1989年に初来日。2003年には東京国立近代美術館などで本格的な回顧展を開いた。
建築部門 Architecture
ドミニク・ペロー Dominique Perrault
1953年4月9日、フランス・クレルモン=フェラン生まれ
新しい建築物を周囲の景観や歴史的背景を損なわずに溶け込ませることを一義にデザインする建築家。1989年、パリの『フランス国立図書館』(1995年完成)の国際コンペを36歳の若さで勝ち取る。本体を地中に埋め、その中心に庭園を造るという斬新なアイデアは当初、批判も浴びたが、徐々に評価を上げていった。メタル・メッシュ(金属の編み目)をふんだんに取り込んだ内装は、パートナーである芸術監督のガエル・ロリオ=プレヴォさんが担当した。以降、ドイツ・ベルリンの『自転車競技場・オリンピック水泳プール』、ルクセンブルクの『欧州連合司法裁判所』、フランス南部アルビの『アルビ・グランド劇場』などを手掛けた。進行中のプロジェクトは、ヴェルサイユ宮殿デュフォー館の増築・改修、パリのロンシャン競馬場の改修など。日本でも新潟・十日町の能舞台『バタフライ・パビリオン』、大阪・梅田の『大阪富国生命ビル』を設計した。
音楽部門 Music
内田 光子 Mitsuko Uchida
1948年12月20日、静岡県熱海市生まれ(イギリス国籍)
日本生まれでロンドン在住の世界的ピアニスト。モーツァルト、シューベルト、シューマン、ベートーヴェンからシェーンベルク、ブーレーズまで幅広いレパートリーを持つ。特にモーツァルトに関しては「彼女ほどモーツァルトを弾きこなすピアニストはいない」といわれ、指揮も行う“弾き振り”も有名。1961年、12歳のときに外交官の父に同行してオーストリアに渡り、ウィーン音楽院でリヒャルト・ハウザーに師事。家族が引き揚げた後もウィーンにとどまり、数々の音楽コンクールで受賞を重ね、1972年、ロンドンに移住した。その演奏は、集中力と安定感、幅広い強弱の変化が特徴で、譜面を通して作曲家と心の“会話”を交わして得た独特の解釈を全身で表現する。マールボロ音楽祭芸術監督を務めるなど若手音楽家の育成にも尽力。今年11月には、サントリーホールで2年ぶりのリサイタルを開く。
演劇・映像部門 Theatre/Film
シルヴィ・ギエム Sylvie Guillem
1965年2月25日、フランス・パリ生まれ
100年に一人と称される世界最高のバレリーナ。12歳のとき、体操競技で五輪国内予選を通過したが、パリ・オペラ座バレエ学校で学んだのをきっかけにバレエに転向。1981年、オペラ座に入団し、1984年、19歳の若さで最高位のエトワールに昇進した。柔軟かつ強靱な肉体と美しい脚線、豊かな表現力で従来の女性ダンサーのイメージを一新、完璧な「6時のポーズ」(180度開脚)の先駆者でもある。十八番は『白鳥の湖』『ドン・キホーテ』『ジゼル』など。1989年、英国のロイヤル・バレエ団に移籍し、世界的な活動を開始。伝統に縛られない演技を貫き通し、ここ10年ほどはコンテンポラリー・ダンスにも取り組んでいる。来日30回以上という大の親日家で、2011年の東日本大震災時には被災者のためにチャリティー公演を実施。今年いっぱいでの引退を表明し、12月の最後の公演は日本で行う予定。
第19回 若手芸術家奨励制度
2015 GRANT FOR YOUNG ARTISTS
選考: クラウス=ディーター・レーマン国際顧問 (ドイツ)
ヤンゴン映画学校(ミャンマー、本部=ドイツ・ベルリン)
Yangon Film School (Myanmar / Headquarters: Berlin, Germany)
英国系ビルマ人の映画製作者、リンジー・メリソンさんが2005年にベルリンで「ヤンゴン映画学校」を設立。欧米諸国から、経験豊富な映画製作者を活動拠点のミャンマー・ヤンゴンに派遣し、監督、撮影技術、シナリオ、ポストプロダクション(撮影後作業)の分野で、これまでに約160人を無料指導してきた。学生、卒業生が製作したドキュメンタリー映画の中には、2008年のサイクロンの被害状況と被災者の声を収録した『ナルギス』など、国際映画祭での受賞作も数多い。学校運営の年間予算60万ユーロ(8100万円)は、主に欧州連合(EU)、ゲーテ・インスティトゥート、フィンランド・メディア通信財団などからの寄付で賄っている。卒業生がプロダクション会社「ヤンゴン映画サービス」を設立し、国際的な非政府組織のドキュメンタリー製作も請け負う。2011年から民主化が進むミャンマーで、メディア文化の担い手に成長していくことが期待されている。