第25回 高松宮殿下記念世界文化賞 受賞者 発表 / 17回若手芸術家奨励制度 発表
世界の優れた芸術家に贈られる高松宮殿下記念世界文化賞(公益財団法人 日本美術協会主催)の第25回受賞者が、9月17日(日本時間17日18時00分)、ローマ、ニューヨーク、ロンドン、パリ、ベルリン、そして東京の各都市で発表されました。
今年の受賞者には、鏡のように表面を磨いたステンレススチールを用いる「ミラー絵画」シリーズなどで知られるイタリアのミケランジェロ・ピストレット、自らの身体を鋳型にとり、顔の表情のない等身大の人体彫刻を制作してきたイギリスのアントニー・ゴームリー、建築の場所と対話し、歴史、文化など土地の「文脈」を機能的な現代建築に融合するイギリスのデイヴィッド・チッパーフィールド、世界的テノール歌手であると同時に指揮者、歌劇場の芸術監督としても活躍を続けるスペインのプラシド・ドミンゴ、監督、プロデューサー、脚本家として数々の名作を生み出してきた映画界の巨匠、アメリカのフランシス・フォード・コッポラの各氏が選ばれました。
また、同時に発表される第17回若手芸術家奨励制度の対象団体には、イタリア・ローマを拠点に、若者へのクラシックの普及、特に恵まれない社会環境の青少年の参加に力を入れている、聖チェチーリア国立アカデミー付属ユニ・オーケストラが選ばれました。
授賞式典は、日本美術協会 総裁の常陸宮殿下、同妃殿下ご出席のもと、10月16日(水)に東京・元赤坂の明治記念館で行われ、5部門の受賞者には、それぞれ顕彰メダルと感謝状、賞金1500万円が贈られます。若手芸術家奨励制度の対象団体には、9月17日(火)、ローマでの受賞者発表の席上、奨励金500万円が贈られました。
各部門受賞者は、下記の通りです。
第25回 高松宮殿下記念世界文化賞 受賞者
■ 絵画部門 ミケランジェロ・ピストレット (イタリア)
■ 彫刻部門 アントニー・ゴームリー (イギリス)
■ 建築部門 デイヴィッド・チッパーフィールド(イギリス)
■ 音楽部門 プラシド・ドミンゴ (スペイン)
■ 演劇・映像部門 フランシス・フォード・コッポラ (アメリカ)
第17回 若手芸術家奨励制度 対象団体
■ 聖チェチーリア国立アカデミー付属ユニ・オーケストラ (イタリア・ローマ)
絵画部門 Painting
ミケランジェロ・ピストレット Michelangelo Pistoletto
1933年6月25日、イタリア・ピエモンテ州ビエッラ生まれ
鏡のように磨かれた金属板に人物などを描いた《ミラー絵画》シリーズで世界的名声を得た。鏡面には見る人や周囲の空間が映り込み、作品と一体化する。過去と現在、二次元と三次元が交錯する表現は、彼のその後の作品や芸術理論の根底となる。イタリア北部の町ビエッラに生まれ、1950年代から絵画に取り組む。自画像を描く際、周囲の空間に目を向けたことが《ミラー絵画》に発展。1960年代には日常的な素材をアートに変容させる前衛運動、アルテ・ポーヴェラの中心的作家となり、現在までイタリアの現代美術を牽引する。1998年には、ビエッラで遊休施設化していた19世紀の繊維工場を改修し、アートをさまざまな社会活動に結びつける実験的施設「チッタデッラルテ」(ピストレット財団)を開設。芸術の創造性による社会の発展を模索している。2013年4月から9月まで、ルーヴル美術館で回顧展が開かれた。
彫刻部門 Sculpture
アントニー・ゴームリー Antony Gormley
1950年8月30日、イギリス・ロンドン生まれ
現代のイギリスを代表する彫刻家。身長193センチの自らの身体を型取りして作った人体像で知られる。その表現は静的で、伝統的な西洋彫刻のような動きの表現を目的としない。「身体は物体ではなく、我々が住む場所」と考え、実験的造形を通して人間の存在について問い続けている。その作品が置かれる空間、時間、自然との関係性を重視、展示全体を作品とし、高い評価を得ている。ケンブリッジ大学で考古学、人類学などを研究した後、インドとスリランカに3年間滞在し、仏教を学ぶ。東洋思想の影響が制作には色濃く現れている。彫刻作品は世界各地に恒久設置され、イギリス・リヴァプール近くの3キロに及ぶ海岸線に100体の人体像を配した作品《アナザー・プレイス》(1997)は最も有名なものの一つ。2012年8月から翌年3月まで、神奈川県立近代美術館葉山館で2体の人体像の屋外展示『TWO TIMES−ふたつの時間』を行った。
建築部門 Architecture
デイヴィッド・チッパーフィールド David Chipperfield
1953年12月18日、イギリス・ロンドン生まれ
建築の場所と対話し、歴史、文化など土地の「文脈」を機能的な現代建築に融合する。優美で静かな表現の中に、本質的な価値が光る設計で国際的に活躍するイギリスの建築家。ロンドンはじめベルリン、ミラノ、上海に事務所を置き、商業施設の内装から大規模な公共建築まで幅広く手掛ける。2009年には、12年をかけたベルリン『ノイエス・ムゼウム(新博物館)』の修復プロジェクトが完成。廃墟同然だった19世紀半ばの歴史的建造物に新たな命を吹き込み、欧州連合現代最優秀建築賞に輝くなど、その手法は世界的に評価された。1980年代後半に日本で建築活動を開始、京都、岡山などに建築物を残しており、特に「借景」の概念など日本の文化や建築から受けた影響は大きい。最近のプロジェクトでは、2011年のイギリスの美術館『ヘップワース・ウェイクフィールド』と『ターナー・コンテンポラリー』、2013年のアメリカの『セントルイス美術館東館』などがある。
音楽部門 Music
プラシド・ドミンゴ Plácido Domingo
1941年1月21日、スペイン・マドリード生まれ
世界的テノール歌手であると同時に指揮者、歌劇場の芸術監督としても活躍している。サルスエラ(スペインの叙情的オペラ音楽)歌手の両親と共に、8歳の時にスペインからメキシコに移住し、両親の劇団で子役として舞台に立つ。メキシコシティの国立音楽院でピアノと指揮を学び、その際、声楽の才能を見出される。メキシコ国立劇場で本格デビュー、イスラエルで活躍した後、アメリカを本拠地とした。その後、数年でウィーン国立歌劇場、メトロポリタンオペラ、ミラノ・スカラ座、ロイヤルオペラなどで名声を確立。150もの役柄を手掛ける。ホセ・カレーラス、ルチアーノ・パバロッティとの三大テノールで世界中のファンを魅了した。今年7月に一時、体調を崩して入院したものの、「休めば、錆びる」をモットーに、72歳の今も、世界中を飛び回りながら、若々しい歌声を維持し、バリトン役もこなす。20年前に創設した国際コンペ「オペラリア」を通じて後進の指導にも情熱を傾けている。
演劇・映像部門 Theatre/Film
フランシス・フォード・コッポラ Francis Ford Coppola
1939年4月7日、アメリカ・デトロイト生まれ
監督、プロデューサー、脚本家として、数々の名作を生み出してきた映画界の巨匠。大学在学中から「低予算映画の王者」ロジャー・コーマンのもとで映画の仕事に携わり、低予算映画を演出。戦争映画『パットン大戦車軍団』(1970)でアカデミー脚本賞を受賞した後、1972年の『ゴッドファーザー』(アカデミ−賞3部門)の世界的ヒットでメジャー監督の仲間入りを果たした。1974年の『ゴッドファーザー Part II』(アカデミ−賞6部門)と『カンバセーション...盗聴... 』(カンヌ映画祭パルム・ドール)に続いて、1979年の『地獄の黙示録』(パルム・ドール)で不動の地位を確立。制作会社アメリカン・ゾエトロープを設立(1969)、ジョージ・ルーカスらと共にアメリカ映画の黄金時代を築く。『コッポラの胡蝶の夢』など最近3作 (2007-2011) は「オリジナル脚本による低予算映画」という若い時代の原点に復帰し、現在、3世代のイタリア系アメリカ人を描いた「野心的大作」を執筆中。黒澤明監督を尊敬し、最近作には小津安二郎監督の「固定したカメラワーク」を適用するなど、日本映画からも大きな影響を受けている。
第17回 若手芸術家奨励制度
2013 GRANT FOR YOUNG ARTISTS
選考: ランベルト・ディーニ国際顧問 (イタリア)
Selected by International Advisor Lamberto Dini (Italy)
聖チェチーリア国立アカデミー付属ユニ・オーケストラ(イタリア・ローマ)
The JuniOrchestra of Accademia Nazionale di Santa Cecilia in Rome
430年の歴史を誇るローマの音楽大学、聖チェチーリア国立アカデミーのブルーノ・カーリ総裁が、「音楽の未来は、新しい演奏者と新しい聴衆を育ててこそ創られる。幼少期から音楽教育を」と、2006年に創設した青少年オーケストラ。中心メンバーは12歳から19歳。恵まれない社会環境の少年少女の参加に力を入れ、奨学金も提供している。「子供達が子供達を助ける」という考えから、慈善活動にも熱心で、ローマの総合病院などの小児科病棟のためのコンサートを毎年、開催し、その収益を小児患者の治療に寄付している。「青少年による青少年のためのコンサート」で若い人へのクラシック普及も目指す。「ユニ・オーケストラ」には、4歳から6歳までと7歳から12歳までの2つの入門者コースがあり、メンバー総数は260人。児童合唱団コースと合わせると550人。若手指導のための年間予算は75万ユーロ(約9700万円)。