第24回 高松宮殿下記念世界文化賞 受賞者 発表 / 第16回 若手芸術家奨励制度 発表
第24回 高松宮殿下記念世界文化賞 受賞者 発表
第16回 若手芸術家奨励制度 発表
世界の優れた芸術家に贈られる高松宮殿下記念世界文化賞(公益財団法人 日本美術協会主催)の第24回受賞者が、9月12日(日本時間12日23時30分)、ニューヨーク、ロンドン、パリ、ローマ、ベルリン、そして東京の各都市で発表されました。
今年の受賞者には、絵の具の代わりに火薬を爆発させて描いた「火薬絵画」など、ダイナミックな作品制作で知られる蔡國強、イタリア彫刻の伝統に対する深い理解に基づいて、卓抜な人間像を表現し、「造形詩人」とも呼ばれるチェッコ・ボナノッテ、光と空間を巧みに組み合わせた独創的な建築から「光の巨匠」と呼ばれ、北欧を代表する建築家、ヘニング・ラーセン、インドの伝統音楽などから独特の音楽的言語を創り上げ、オペラから映画音楽まで幅広い作曲活動で、クラシック、ポピュラー双方に多大な影響を与え続けるフィリップ・グラス、端麗な容姿と正確なテクニックによる演技で、国内外で気品ある優れた舞台を作り続けてきた現役プリマバレリーナ、森下洋子の各氏が選ばれました。
また、同時に発表される第16回若手芸術家奨励制度の対象団体には、アメリカ・デトロイトを拠点に、黒人・ラテン系アメリカ人のクラシック演奏家の養成を目指す「スフィンクス・オーガニゼーション」が選ばれました。
授賞式典は、日本美術協会 総裁の常陸宮殿下、同妃殿下ご臨席のもと、10月23日(火)に東京・元赤坂の明治記念館で行われ、5部門の受賞者には、それぞれ顕彰メダルと感謝状、賞金1500万円が贈られます。若手芸術家奨励制度の対象団体には、9月12日(水)、ニューヨークでの受賞者発表の席上、奨励金500万円が贈られました。
各部門受賞者は、下記の通りです。
第24回 高松宮殿下記念世界文化賞 受賞者
■ 絵画部門 蔡 國 強 (中国)
■ 彫刻部門 チェッコ・ボナノッテ(イタリア)
■ 建築部門 ヘニング・ラーセン (デンマーク)
■ 音楽部門 フィリップ・グラス (アメリカ)
■ 演劇・映像部門 森下 洋子 (日本)
第16 回 若手芸術家奨励制度 対象団体
■ スフィンクス・オーガニゼーション(本部:アメリカ・デトロイト)
絵画部門 Painting
蔡國強 Cai Guo-Qiang
1957年12月8日、中国福建省泉州市生まれ
絵の具の代わりに火薬を爆発させて描いた「火薬絵画」など、ダイナミックな作品制作で知られる中国を代表する現代美術家。破壊を創造へと転化させる数多くの大規模プロジェクトには、人類や自然の根源にまで迫る本質的な問いが含まれている。上海演劇大学で舞台美術を学んだ後、自由な活動の場を求め、1986年から日本に滞在し、1995年以降はニューヨークを拠点に活動。火薬と導火線を使った《万里の長城を1万メートル延長するプロジェクト》(1993)など話題作を次々に発表。2005年のヴェネツィア・ビエンナーレでは、初出展した中国館のキュレーターを務めた。2008年の北京オリンピック開会式では、打ち上げ花火で《歴史の足跡》の演出を手掛けた。広島の原爆ドーム付近の河岸で黒い花火を打ち上げた《黒い花火:広島のためのプロジェクト》(2008)など日本での展示も多い。中国国籍では初の世界文化賞受賞。
彫刻部門 Sculpture
チェッコ・ボナノッテ Cecco Bonanotte
「具象彫刻の奇才」「造形の詩人」と呼ばれる現代イタリアを代表する彫刻家。人間を主題に据え、時間や空間までも感じさせる豊かで独創的な作品を生み出している。彫刻を通して「人間の中心にある、喜びや悲しみ、愛情といった深い感情に継続性を与えたい」と語る。《対照》《期待》《綱渡り師たち》など深い精神性をたたえた作品は高く評価され、2000年にはヴァチカン美術館(ヴァチカン市国)の新しい正面入り口の大扉を制作した。日本との関係も40年近くに及ぶ。中冨記念くすり博物館(佐賀県鳥栖市)、サクラファミリア(カトリック大阪梅田教会、大阪市)大聖堂の作品も手掛け、薬師寺(奈良市)など各地で個展を開催。定期的に来日し、東京のアトリエで制作、その合間を縫って京都の禅寺の庭園へ出向き、黙考を重ねるほどの日本びいきでもある。
建築部門 Architecture
ヘニング・ラーセン Henning Larsen
建物の天井や窓からふりそそぐ光が床や壁に反射し、空間を神々しく包み込む。周到に計算された光と空間の織りなす効果に、ラーセン建築の最大の特徴がある。「光の巨匠」と呼ばれ、デンマーク、北欧を代表する現代建築家だ。日照時間の短いデンマークで、光への敬虔な思いは幼少時に育まれたという。デンマーク王立アカデミー、マサチューセッツ工科大学などに学んだ後、事務所を構え、光を讃えた作品は各地のコンペを次々に勝ち抜く。『マルメ市立図書館』(スウェーデン、1997)、『オペラハウス』(コペンハーゲン、2005)など、光と空間の相互作用によって生み出される独創的な作品は常に注目を集めてきた。『サウジアラビア外務省』(リヤド、1984)など、陽光溢れる中東でも評価が高く、プロジェクトが目白押しだ。「私は子供のときから建築家になる運命だった」と語る87歳の巨匠は、若手建築家の育成に取り組む一方、大好きなバッハを聴きながら、スタッフと新プロジェクトについても議論を重ねている。デンマークからは初の世界文化賞受賞。
音楽部門 Music
フィリップ・グラス Philip Glass
1937年1月31日、アメリカ・メリーランド州ボルチモア生まれ
一定の音型を反復する「ミニマル・ミュージック」の旗手として知られる現代音楽の巨匠。オペラやダンス、映画と活動の幅は広く、自身が「劇場音楽」と呼ぶ曲は、クラシックのみならずロックやポップスにも多大な影響を与えている。幼少時からヴァイオリンとフルートを習い、名門ジュリアード音楽院へ。1965年にインドでシタール奏者のラヴィ・シャンカールと出会い、リズム構造を重視する旋律に決定的な影響を受けた。1968年にはニューヨークに戻り、楽団を結成。1976年のオペラ『浜辺のアインシュタイン』はフランスで絶賛され、映画音楽でも『トゥルーマン・ショー』がゴールデン・グローブ賞最優秀音楽賞に。2005年には愛知万博で代表作『カッツィ3部作』(1982-2002)の映画コンサートを行った。アレン・ギンズバーグやウディ・アレンら他分野の芸術家とのコラボレーションにも積極的。75歳の今も太極拳やヨガの日課を欠かさず、貪欲に音楽の可能性を追求している。
演劇・映像部門 Theatre/Film
森下 洋子 Yoko Morishita
1948年12月7日、広島市生まれ
日本人バレエダンサーとして、初めて国際的に活躍した「世界のプリマ」。3歳でバレエを始め、松山バレエ団に入団。1974年にブルガリアでのヴァルナ国際バレエコンクールに、後に夫となる清水哲太郎と出場し、日本人初の金賞に輝くと、世界の名バレエ団への客演を重ねた。ルドルフ・ヌレエフとはイギリスのエリザベス女王戴冠25周年記念公演などで200回近くコンビを組んだほか、モーリス・ベジャールも森下のため、『ライト』を振り付け、大成功を収めた。150センチの身体に、情熱的な感情を秘めた踊りは“東洋の真珠”と国内外で高く評価され、日本人として初めて、パリ・オペラ座出演、イギリスのローレンス・オリビエ賞受賞も果たした。数多くの受賞の大半が、最年少の受賞でバレエ界初。舞踊歴61年目を迎える今も、毎日5時間のレッスンを欠かさず、『白鳥の湖』ほか古典全幕作品を中心に、現役プリマとして表現を深化させている。
第16回 若手芸術家奨励制度
2012 GRANT FOR YOUNG ARTISTS
選考: ウィリアム・ルアーズ国際顧問 (アメリカ)
Selected by International Advisor William Luers (USA)
スフィンクス・オーガニゼーション (本部:アメリカ・デトロイト)
The Sphinx Organization (Detroit, USA)
黒人・ラテン系アメリカ人のクラシック音楽への参加を促進し、若手演奏者を養成するため、黒人のヴァイオリニスト、アーロン・ドワーキン氏(42歳)が1996年に創設した。オーケストラの中で黒人は一人だったというドワーキン氏自身の体験や、コンサートの聴衆にも黒人・ラテン系が少ないことから、「クラシック音楽での文化の多様性」を目指している。毎年、弦楽器奏者のコンクールの開催など、黒人・ラテン系のプロ演奏者養成のための様々な活動を行っているほか、デトロイトの恵まれない地域の学校でのクラシック音楽教育なども実施。創設以来15年で、米国の主要オーケストラでわずか2パーセントだった黒人・ラテン系演奏者の比率は4パーセントに倍増した。ヨーヨー・マや故アイザック・スターンら著名音楽家の支援も受け、年間予算320万ドル(約2億5600万円)のうち6割を民間からの寄付で賄っている。