第20回
2008年
建築部門
Peter Zumthor
ピーター・ズントー
建てる「場所」と「用途」に真摯に向き合い、ふさわしい「素材」選びに労を惜しまない。「オーダーメードのような建築」にこだわる。スイス南東部の州で歴史的建造物の保存・修復をする仕事を経て、建築家として独立。今も同じ州の小さな村ハルデンシュタインにアトリエを構え、その作品はスイスを中心に欧州に集中している。宗教建築から美術館、温泉施設、住宅にいたるまで、一貫して精神性の高さを感じさせる。昨年開館した「聖コロンバ教会ケルン大司教区美術館」(ドイツ・ケルン)も、ローマ時代から脈々と続く歴史の継続性を、廃墟部分を生かすことで表現。さしこむ光と陰の微妙な使い方は、谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」に通じるようだ。
略歴
「誠実な建築家」と評される。建てる「場所」と「用途」に真摯に向き合い、ふさわしい「素材」を選ぶのに労を惜しまない。職人の技と緻密さを、粘り強く要求する。
何より自分自身に誠実だ。「私は建築を愛している。だから、仕事を受ける際はまず、美しいものを作れる可能性がたっぷりあるかどうかを見極める」
スピードと効率が優先される時代、安易な商業主義に与しない態度は、「孤高」と表現されることもあるが、本人は「私は熱い建築家。自分の望むやり方で働きたいだけ」と言う。
スイス・バーゼルの家具職人の家に生まれ、父親から大工仕事の手ほどきを受けた。ニューヨーク留学を経て、スイス南東部グラウビュンデン州の歴史的建造物保存局に勤務。1979年に建築家として独立するが、現在も同州の小さな村ハルデンシュタインにアトリエを構える。建築物もスイス中心に欧州に集中しており、多くは都会からはるかに離れた田舎や山奥にある。
その真骨頂は、祈りの空間だろう。スイス・アルプスの山村スンヴィッツの「聖ベネディクト教会」(1989)は、雪崩で崩壊した中世の教会の代わりに建てられた木造の教会で、小舟を思わせる内部空間が何とも端正だ。また、ドイツ・ケルン近郊の麦畑にすっくと建つ「ブルーダー・クラウス・フィールド・チャペル」(2007)は、自然と寄り添い生きる地元民の厚い信仰心を、崇高なまでに具現化している。
さらに、2007年秋に完成した「聖コロンバ教会ケルン大司教区美術館」は、古い教会の跡地に美術館を増築したものだが、ローマ時代から脈々と続く歴史の継続性を、廃墟部分を生かすことで表現。さしこむ光とともに精神性の高さを感じさせる。
他にも、300年前から続く農家に新家屋を継ぎ足すことで新しい息吹を入れた「グガルン・ハウス」(スイス)、地元の石をふんだんに使った標高1200メートルの温泉施設「テルメ・ヴァルス」(同)、すりガラスで覆った「ブレゲンツ美術館」(オーストリア)など、いずれも実用性と美が共存し、谷崎潤一郎の「陰翳礼賛」に通じるような、光と陰の微妙な使い方が印象的だ。
ズントーは、建築はシンボルではなく、あくまで使うためのものだと強調し、「オーダーメードのように、その場特有のものになる建築」にこだわる。その姿勢は職人を束ねる棟梁のようであり、哲学者のようでもある。
略歴 年表
「聖コロンバ教会ケルン大司教区美術館」ドイツ
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聖ベネディクト教会
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テルメ・ヴァルス
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テルメ・ヴァルス
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ブレゲンツ美術館
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ブレゲンツ美術館
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聖コロンバ教会ケルン大司教区美術館
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聖コロンバ教会ケルン大司教区美術館