第31回
2019年
建築部門
Tod Williams & Billie Tsien
トッド・ウィリアムズ&ビリー・ツィン
米ニューヨークを拠点に活動する建築家夫妻。1977年から協働、1986年にパートナーとなり、研究所や博物館、学校など営利目的ではない建物の設計を多く手掛ける。建築物の価値や利用方法を重視しながら、素材や構造を緻密に分析。環境に溶け込み、“手造り感”のあるデザインは穏やかで温かみのある空間を創り出す。米カリフォルニアの『神経科学研究所』(1995)で注目され、香港やインドなど国内外で多数のプロジェクトを成功させた。代表作の米フィラデルフィアの『バーンズ財団美術館』(2012)は自然を取り入れたデザインで、旧館の邸宅美術館の荘厳な雰囲気を見事に再現。オバマ前大統領とミシェル夫人により、米シカゴの『オバマ大統領センター』(2022年完成予定)の設計者に選ばれ、話題となっている。
略歴
米ニューヨークを拠点に1977年から協働し、1986年にパートナーとなった建築家夫妻。高層ビルや商業的なプロジェクトには興味を示さず、学校や美術館などを中心に手掛ける。デザインの動機となるのは、建物に対する共感だという。
「クライアントは誰なのかを考えることから始めます」と、ウィリアムズ。ツィンも「私たちの仕事は本質を形作るものの理解に努めること。同じ価値観がないプロジェクトには取り組めません」と続ける。
建物の価値や、どのように利用されるかを重視しながら素材や構造、光などを緻密に分析し、新しい可能性を模索し続ける。特定の木や石、金属といった素材は、見る者の想像力をも喚起させ、結果として“手造り感”のある、穏やかで心地良い空間を創り出す。
代表作の米フィラデルフィアの『バーンズ財団美術館』(2012)は、そんなデザイン哲学が詰まった作品だ。
この美術館には、印象派の作品を中心に、ルノアール、セザンヌ、マティス、ピカソ、モジリアーニらの絵画900点以上が展示されている。以前は庭園に囲まれた郊外の邸宅美術館に展示されていたが、これを都市部に移転し、絵画の展示方法まで復元するという異例の挑戦だった。館内に中庭を設計し、庭園の雰囲気を見事に再現。美術館内部は荘厳さを保ちつつ、光が差し込み、静かな外観とは対照的な斬新な風景が広がる。
「私たちがデザインする建物は『人間みたいだ』と言われます。所属性を持たせつつ、中に入ると驚きがあるようにしたい」とツィンは話す。
中西部ミシガン州で生まれたウィリアムズと、中国系米国人でニューヨーク州出身のツィン。異なる文化的背景を持つ二人は「意見が合わず、議論になる」と笑うが、「一緒に仕事をするのが好き。別々で多くの仕事を引き受けたとしたら質は半減してしまう。遅さや複雑さは不可欠です」とウィリアムズ。二人の朗らかな関係がそのまま建築に投影されているようだ。
カリフォルニアの『神経科学研究所』(1995)や、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の拡張のために2014年に取り壊された『アメリカ民俗芸術美術館』(2001)を始め、香港やインドでもプロジェクトを成功させた。大学で教鞭を執るなど後進育成にも力を注ぐ。2016年、オバマ前大統領とミシェル夫人により、シカゴの『オバマ大統領センター』(2022年完成予定)の設計者に選ばれ、一段と注目を集めている。
略歴 年表
『プリンストン大学ファインバーグホール』 (米)
『アジア・ソサイエティ香港センター』(香港・アドミラルティ)
『シカゴ大学ローガン芸術センター』
『在メキシコ米国大使館』受注(2022年完成予定)
ナショナル・メダル・オブ・アーツ受賞(アメリカ)
米建築家協会(AIA)の建築事務所賞
王立英国建築家協会よりインターナショナル・フェローシップ
『オバマ大統領センター』受注 (シカゴ、2022年完成予定)
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ニューヨークの建築事務所にて
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『バーンズ財団美術館』2012年
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『バーンズ財団美術館』内部の庭
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『バーンズ財団美術館』の展示室
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『レフラック・センター・アト・
レークサイド』 -
『オバマ大統領センター』予想図