第7回
1995年
音楽部門
Andrew Lloyd Webber
アンドリュー ・ ロイド ・ ウェッバー
作曲したロンドン・ミュージカルが次々と大ヒットとなり、ブロードウェイをも席巻、世界中で上演された。ビートルズに続いて”音楽で世界を征服した英国人”といわれている。
1948年、父は音楽学校校長、母はピアノ教師というロンドンの音楽一家に生まれる。オックスフォード在学中に作詞家のティム・ライスと出会い、「ヨゼフと不思議な天然色のドリーム・コート」を作曲。これが注目されてこのコンビは70年、「ジーザス・クライスト=スーパースター」を書いた。ロンドン・ミュージカルの夜明けを告げたと言われるこの作品は、8年間という当時の記録破りのロングランとなり、ブロードウェイでも大ヒット、映画化もされた。続く「エヴィータ」(1978)でも成功を収めた。後、ライスと別れたが、81年には「キャッツ」でトニー賞7部門を独占。84年には「スターライト・エクスプレス」を発表、つづく86年の「オペラ座の怪人」と93年の「サンセット大通り」でもトニー賞7部門を受賞、いずれも大ヒットを続けている。92年にはサーの称号を受ける。
日本では劇団四季が「キャッツ」、「ジーザス・クライスト=スーパースター」、「エヴィータ」、「オペラ座の怪人」、「アスペクツ・オブ・ラブ」を上演、ヒットさせている。「スターライト・エクスプレス」は2度、日本人キャストを加えた英国カンパニーで上演された。
略歴
アンドリュー・ロイド・ウェッバーは、ポピュラー音楽の世界でビートルズに続いてイギリスから世界を征服したといわれる。『ジーザス・クライスト=スーパースター』、『キャッツ』、『オペラ座の怪人』など、その作品は世界中で上演され、たくさんのファンをもつ。天賦の才に恵まれたメロディー・メーカーの音楽が人々の心を打つ。1992年「サー」に叙されたのに続いて、1997年には女王から「ロード」の位を受けている。
ロイド・ウェッバーは1948年、ロンドンに生まれた。父が音楽学校の校長、母がピアノ教師という音楽一家に育った。弟ジュリアンも第一線で活躍するチェリストである。子供のころからヴァイオリン、ピアノ、フレンチホルンなどをこなしたという。彼の音楽の背景にはロックがある。「もちろんプッチーニ、モーツァルト、ベートーヴェンにも親しんだが、ロックンロールに浸った少年時代と、ビートルズ、プレスリーの影響が大きい」と話している。
また、アメリカのミュージカル、特にロジャースとハマースタインの作品『南太平洋』に魅せられ、その映画を繰り返し見たという。オックスフォード大学に学んだが、ミュージカルの道に進む。オペラと同じように絵画、演劇、建築などあらゆる要素が入った総合芸術だからである。
17歳のとき作詞家ティム・ライスと出会ったことが転機となった。ふたりのコンビでつくった最初のミュージカル作品は、小学生のために書かれた『ヨセフと不思議なテクニカラーのドリーム・コート』。続いて1970年に発表された『ジーザス・クライスト=スーパースター』が大ヒットした。この作品は初めレコードで発売され、1971年に舞台に乗せられたのだが、「ロック・オペラ」といわれて沈滞気味のミュージカル界に活を入れ、一躍、世界に躍り出た。その後の『キャッツ』(1981)は爆発的なロングランとなり、さらに『スターライト・エクスプレス』(1984)、『オペラ座の怪人』(1986)などが生まれていく。『サンセット大通り』は1995年度のアメリカ最高の演劇賞、トニー賞で7部門を受賞した。
ロンドンのウエストエンド、ニューヨークのブロードウェイでは今なお多くの劇場で、ロイド・ウェッバーの作品がいくつも同時に上演されている。日本でもほとんどの作品が上演されている。1987年と90年にはフジテレビが『スターライト・エクスプレス』をイギリスから招聘している。『スターライト・エクスプレス』は「私の息子が幼いころ、アメリカで蒸気機関車に乗って大喜びしたことから子供のために」つくった作品。とくに、劇団四季が『キャッツ』、『オペラ座の怪人』、『エビータ』など5作品を上演し、日本のファンの期待に応えている。劇団四季代表の浅利慶太の演出に全幅の信頼を置いているという。「日本は最初に私の作品を温かく迎えてくれた国として、わが家のように思っている」と話す。
劇中の歌が独立して歩き出すのがロイド・ウェッバーの魅力。『キャッツ』のなかで年老いた娼婦猫が歌う『メモリー』はとくに有名だろう。バーブラ・ストライサンドをはじめ世界中でさまざまな歌手によってレコーディングされている。『エビータ』では『アルゼンチンよ泣かないで』。ペロン大統領の妻エヴァが祖国を思って切々と歌い上げる。『オペラ座の怪人』では『ファントム・オブ・ジ・オペラ』や『マスカレード』など枚挙にいとまがない。
多くの作品のなかで興行的には『キャッツ』や、世界の60都市で上演された『オペラ座の怪人』がトップクラスだが、本人は音楽的には『アスペクツ・オブ・ラブ』が一番のお気に入りという。これだけみなに親しまれるメロディーをつくっているロイド・ウェッバーが実は歌うことは苦手。「唯一歌うのは作詞家に聴かせるときだけ」というからおかしい。
作曲は楽器を使わずすべて頭のなかでおこなう。「次の日まで覚えていないような曲は人の心を打たない」からだ。人々の記憶に残るメロディーがミュージカルを支配するのは当然だが、頭のなかで作曲するという意味はそれだけではない。「曲を強引にストーリーのなかに押し込むのは最悪だ。ミュージカルの成否の鍵は劇の構成が第一で、メロディーはその次なのだ」とポリシーを話す。
ロイド・ウェッバーにはクラシック音楽の分野の作品もある。1985年の作品『レクイエム』がその例で、戦争における子供への虐待をテーマにしており、カンボジアで起った悲惨な事件に触発されてつくったという。こうした作品には、宗教音楽作曲家でもあった父からの影響がうかがえる。
ミュージカルのヒット記録だけでは語り尽せない幅広さをもつ作曲家なのだ。
江原和雄
略歴 年表
主な作品
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エビータ
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ジーザス・クライスト・スーパースター
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スターライト・エクスプレス
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©The Sankei Shimbun