トップ 受賞者一覧 ジェームズ・タレル

第32回

2021年

彫刻部門

James Turrell

ジェームズ・タレル

 1960年代から今日まで、光と知覚の関係を一貫して探求する現代美術家。ポモナ・カレッジで数学と知覚心理学を、カリフォルニア大学大学院で美術を学び、クレアモント大学院大学で芸術修士号を取得した。矩形にくり貫かれた天井を見上げ、刻々と変化する空の色や光を体感する《スカイスペース》シリーズのように、人の知覚を静かに引き出す光の作品で知られる。1979年からライフワークとして取り組む《ローデン・クレーター》プロジェクトは、死火山の火口と内部に空間を作り、天体の運行に合わせて光を知覚するという壮大な計画で、2026年完成予定という。日本国内では香川県直島の「地中美術館」や「南寺」、金沢21世紀美術館、新潟県十日町市の《光の館》などに常設作品がある。

略歴


 光と知覚の関係を一貫して探求している世界的な現代美術家。米カリフォルニア州クレアモントのポモナ・カレッジで数学と知覚心理学を、カリフォルニア大学アーバイン校大学院で美術を学び、クレアモント大学院大学で芸術修士号を取得した。飛行機を操縦し、航空力学や天文学にも精通。豊富な飛行体験は、創作にも少なからず結びついている。
 幼少期から光に魅せられてきたという。クエーカー教徒だった家族の影響も大きく、瞑想で「内に入って光を迎える」ように、「目を閉じた夢の中にも光は宿る。人間の内面と外界を結ぶ光を扱いたい」と話す。また「私は光が何を照らすかではなく、光そのものが啓示であることに興味がある」とも語り、「物質としての光」を可視化させるアイデアを追いかけてきた。
 1967年、米パサディナ美術館(現ノートン・サイモン美術館)で、初期の代表作《プロジェクション・ピース》による初個展を開催。プロジェクターによって幾何学形を室内に投影した同作品は、知覚や認識の変容を体感できるインスタレーション。以降、霧状の光がスクリーンのように覆う作品や、漆黒の部屋でかすかな光を感知させる作品など、人の知覚を静かに引き出す光の作品を次々に生み出した。
 世界各地に設置している《スカイスペース》シリーズの最新作が米マサチューセッツ現代美術館で2021年5月にオープンし、これまでに計102作が完成した。矩形にくり貫かれた天井を見上げ、刻々と変化する空の色や光を体感できる作品。空の光はやがて、自己の内側へと染み入ってゆく。まさに、人間の内面と外界を結ぶ光の存在が感じられる。
 雄大な自然を舞台にしたライフワークもある。アリゾナ州の火山帯に広大な土地を入手し、1979年から取り組む《ローデン・クレーター》プロジェクトだ。死火山の火口と内部にたくさんの部屋を作り、天体の運行に合わせて光を知覚するという壮大な計画で、2026年の完成に向け順調に進行中という。
 ホイットニー美術館(米)、パリ市立近代美術館、水戸芸術館現代美術センター、グッゲンハイム美術館(米)での個展やグループ展も含め、約500の展覧会を実現させてきた。日本国内では香川県直島の「地中美術館」や「南寺」、金沢21世紀美術館、新潟県十日町市の《光の館》などに常設作品がある。

略歴 年表

1943
アメリカ・ロサンゼルス生まれ
1965
ポモナ・カレッジ知覚心理学学士号
1965-66
カリフォルニア大学アーヴァイン校大学院で美術を学ぶ
1966
光を使った実験的な作品制作を開始
1967
パサデナ(現ノートン・サイモン)美術館で初の個展
1973
クレアモント大学院大学芸術修士号
1974
≪スカイスペース≫シリーズの初作品を制作
1979
≪ローデン・クレーター≫プロジェクト着手(アリゾナ)
1980
ホイットニー美術館で個展
1983
パリ市近代美術館で個展
1984
マッカーサー・フェローシップ(アメリカ)
1990
ニューヨーク近代美術館で個展
1995
日本で初の個展 『ジェームズ・タレル 未知の光へ』(水戸芸術館)
1998
ウルフ賞(イスラエル)
1999
≪バックサイド・オブ・ザ・ムーン≫ 直島・家プロジェクト「南寺」
2000
≪光の館≫ 第1回大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ(新潟)
2002
トーマス・ジェファーソン・メダル(アメリカ)
2004
≪ブルー・プラネット・スカイ≫(金沢21世紀美術館)
2006
フランス芸術文化勲章コマンドゥール
2009
王立英国建築家協会フェロー
2011
ヴェネツィア・ビエンナーレ企画展 『イルミネーションズ』
2013
アメリカ国民芸術勲章
2021
≪スカイスペース≫新作公開(マサチューセッツ現代美術館)
  • 《プルシャ》2011年

  • 《スカイスペース・レッヒ》2018年

  • アメリカ・アリゾナ州のスタジオにて

  • 《ローデン・クレーター》の外観

  • 《ローデン・クレーター》
    雲のかかったクレーターの目

《プルシャ》2011年
© James Turrell, Photo: Florian Holzherr

《スカイスペース・レッヒ》2018年
オーストリア
© James Turrell
Photo: Florian Holzherr

アメリカ・アリゾナ州のスタジオにて 2021年
Photo: Yutaka Sato

《ローデン・クレーター》の外観 アメリカ・アリゾナ州
© James Turrell

《ローデン・クレーター》
雲のかかったクレーターの目
アメリカ・アリゾナ州
© James Turrell
Photo: Florian Holzherr