第32回
2021年
絵画部門
Sebastião Salgado
セバスチャン・サルガド
徹底した取材によるフォト・ドキュメンタリーの第一人者。1969年にブラジルから渡仏し、1973年、パリを拠点に経済学者から写真家に転じた。アフリカの飢餓をとらえた《サヘル》、肉体労働の現場に迫った《人間の大地 労働》、移民・難民の実態を追った《移民たち》、地球へのオマージュというべき《ジェネシス(起源)》など、社会に重い問いを投げかける作品集を次々に発表。1990年代からブラジル中部の故郷を拠点に、自然の復元・保全などの環境活動にも尽力している。モノクロを基調に自然光のみで撮影した写真は、人間を含めた生きものの尊厳を写し出している。最新作は、7年にわたりアマゾンの生態系と先住民族の生活様式を取材した《アマゾニア》。2021年5月に写真集が刊行され、展覧会もパリを皮切りに世界各都市で巡回中だ。パリ在住。
略歴
徹底した取材によるフォト・ドキュメンタリーで数々の賞や栄誉に輝き、国際的に高く評価されている写真家。
ブラジル中部ミナス・ジェライス州の小村で育ち、サンパウロ大学で経済学を学んだ。1969年、軍事政権の圧政を逃れ、妻レリアさんと共にフランスに移住。パリ大学博士課程を経て、国際コーヒー機関のエコノミストとしてカメラを手にアフリカの農業発展計画などに携わるうちに写真に傾倒。1973年、写真家に転じた。マグナム・フォトなどの写真エージェンシー所属を経て1994年、パリに自身のエージェンシー「アマゾナス・イメージズ」を設立した。
これまで訪れたのは100カ国以上。「色は気を散らすから」とモノクロを基調に、太陽光のみで撮影する。じっくり腰を据えて風景や状況に溶け込み、被写体に肉薄する。アフリカの飢餓をとらえた《サヘル 苦境にある人間/道の終わり》(1986/1988年)、世界中の肉体労働の現場に迫った《人間の大地 労働》(1993年)、移民・難民の実態を追った《移民たち》(2000年)などを発表。
「写真は私の言語」と語るように、富の不均衡、戦争や災害などの惨状を世に認知させると同時に、苦境においてもなお失われることのない人間の尊厳を示した。
しかし、1990年代半ば以降、ルワンダ虐殺やユーゴスラビア紛争で凄惨な暴力を目の当たりにして体調を崩し、一時活動休止を余儀なくされた。ブラジルに戻り、荒廃していた家族所有の土地に再植林を始めた。環境回復と持続可能な開発を促進するプロジェクト「大地研究所」(インスティトゥート・テラ)を立ち上げて、約20年間で原生種の苗木250万本を植え、水源や生態系も少しずつ復活している。
代表作といわれる《ジェネシス(起源)》(2013年)では、世界中の手つかずの自然や動物、原始的生活を営む人々を取材。その撮影の様子や足跡を追った映画『セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター』(2014年)は、ヴィム・ヴェンダースと長男のジュリアーノ・リベイロ・サルガドが共同監督を務めた。
最新作は、7年にわたりアマゾン熱帯雨林の生態系と先住民族の生活様式を捉えた《アマゾニア》。違法伐採や金採掘、ダム建設、気候変動などがもたらす危機に警鐘を鳴らす。2021年5月に写真集が刊行され、展覧会もパリ、サンパウロ、リオデジャネイロ、ローマ、ロンドンなど世界各都市を巡回中だ。
略歴 年表
アストゥリアス皇太子賞(スペイン)
レジオンドヌール勲章シュヴァリエ (フランス)
ドイツ・ブックトレード平和賞
ハーバード大学名誉芸術博士(アメリカ)
-
《サヘル》エチオピア
-
ナミビアで取材中のセバスチャン・サルガド
-
《ジェネシス(起源)》ボツワナのサン人
-
《アマゾニア》を取材中の
セバスチャン・サルガド -
《アマゾニア》ブラジル・アマゾナス州の
先住民族スルワハ領地の若者 -
レリア夫人と『アマゾニア展』にて