第35回
2024年
彫刻部門
Doris Salcedo
ドリス・サルセド
南米コロンビアの彫刻家、インスタレーション・アーティスト。暴力、喪失、記憶、痛みをテーマに、椅子など木製家具や衣類といった日常的な素材を再利用、再構築して創作。ボゴタのホルヘ・タデオ・ロサノ大学で美術を学び、1980年代初頭に渡米し、ニューヨーク大学大学院で美術学修士号を取得。半世紀以上続いたコロンビアの内戦が、創作活動の原点。全ての作品は暴力の被害者をモチーフにしている。代表作に英国のテート・モダンのタービンホールの床に亀裂を創出した《シボレス》(2007年)や、コロンビアの内戦終結を記念して37トン分の武器を溶かした金属からタイルを造り、展示館の床に敷き詰めた《フラグメントス(断片)》(2018年)などがある。現在、「故意に破壊される家屋について取り上げる」ために人間の髪の毛で作る作品に取り組んでいる。ヒロシマ賞、ナッシャー彫刻賞(米国)、野村アートアワード大賞など受賞多数。コロンビアからの世界文化賞受賞は初めて。
略歴
南米コロンビア・ボゴタを拠点に活動している彫刻家、インスタレーション・アーティスト。暴力、喪失、記憶、痛みをテーマに、そのメタファー(隠喩)として椅子など木製家具や衣類、花びらといった身近な素材を再利用、再構築しながら表現している。
絵を描くのが好きで6歳のときにデッサンのレッスンを受け始めた。ボゴタのホルヘ・タデオ・ロサノ大学で美術を学び、1980年代初頭に渡米し、ニューヨーク大学大学院で美術学修士号を取得した。
コロンビア革命軍(FARC)などの左翼ゲリラと政府軍、右翼民兵組織との間で半世紀以上続いた内戦が、創作活動の原点となっている。「コロンビアで育ったことで、私は世界を見る視点を得た。それが私の作品全体を決定づけた」
全ての作品は、暴力の被害者をモチーフにしている。自身の作品について「第一に、暴力が簡単に忘れ去られないように暴力の証人となること。第二に、作品を通して被害者の苦しみへの共感を示すこと。第三に、世界で起きていることを批判的に分析・思考する言葉でありたい」と語る。
まずリサーチから始まり、インタビューを含め徹底的に研究した後に制作に取り掛かるため、「犯罪と政治的暴力が被害者に与える壊滅的な影響を本当に理解するには何年もかかる」と言う。
英国ロンドンのテート・モダンから委嘱を受け、タービンホールの床に亀裂を創出し、植民地から連れてこられた奴隷や人種差別といった問題を表現したインスタレーション《シボレス》(2007年)でその名を世界に知らしめた。
作品《フラグメントス(断片)》(2018年)は、FARCの戦闘員が自主的に差し出した37トンの武器を溶かして造られた1,296枚のタイルを、ボゴタの展示会場に床として配置したもの。内戦中に性的暴力を受けた20人の女性が、溶けた金属をタイルに打ち込み、「芸術と記憶のための空間」の床として完成させた。「これで彼女たちは尊厳と力を取り戻した。武器が破壊されて命が救われただけでなく、犠牲者の人生も変わった。現実に変化をもたらした唯一の作品だ」と強調する。
現在、人間の髪の毛を使った作品を制作中。ウクライナ、ガザ、シリアのような場所で目撃される「被害者を苦しめ、強制的に移住させることを目的とした、故意による家の破壊」を扱っているという。
スタジオには総勢50人ほどのチームがおり、「私の作品はソロ歌手ではなく、合唱団によって生み出される」と語る。
ヒロシマ賞、ナッシャー彫刻賞(米国)、野村アートアワード大賞など受賞多数。コロンビアからの世界文化賞受賞は初めて。
略歴 年表
ニューヨーク新現代美術館で個展(ニューヨーク)
≪ノビエンブレ6&7(11月6日と7日) ≫ (ボゴタ最高裁判所の壁)
≪ア・フロール・デ・ピエル≫
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《ノビエンブレ6&7(11月6日と7日)》2002年
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《喪に服す》2007年
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《シボレス》2007年
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《プレガリア・ムーダ(沈黙の祈り)》
2008-2010年
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《不在の追加》 2016年
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《フラグメントス(断片)》 2018年
製造風景
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《根絶》2020-2022
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《ア・フロール・デ・ピエル》2012年
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《フラグメントス(断片)》2018年
(2024年5月)
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ボゴタのスタジオにて 2024年5月