トップ 受賞者一覧 スティーヴ・ライヒ

第18回

2006年

音楽部門

Steve Reich

スティーヴ・ライヒ

 最小限に抑えた音型を反復させるミニマル・ミュージックの先駆者として「現代における最も独創的な音楽思想家」(ニューヨーカー誌)と評される。コーネル大学哲学科を卒業後、ジュリアード音楽院でウィリアム・バーグスマらに師事した。同じ言葉を吹き込んだ二つのテープを同時に再生し次第に生じてくるフェーズのズレにインスピレーションを得て、初期代表作のひとつ「イッツ・ゴナ・レイン」(1965年)が誕生した。70年代以降はアフリカ、インドネシア・バリ島の伝統音楽、ユダヤ人であるルーツを探るようにヘブライ語聖書の伝統的な詠唱法を学び、「言葉が生む旋律」を再発見した。この間「18人の音楽家のための音楽」(74-76年)、ホロコーストを題材にした「ディファレント・トレインズ」(88年)で2つのグラミー賞を受賞。1993年には「21世紀のオペラはこうあるべき」(タイム誌)と評された「The Cave-洞窟-」を発表した。70歳を迎えた2006年は、欧米各地で記念コンサートを開催。

略歴

  最小限に抑えた音型を反復させるミニマル・ミュージックの先駆者として「現代における最も独創的な音楽思想家」(ニューヨーカー誌)と評される。コーネル大学哲学科を卒業後、ジュリアード音楽院でウィリアム・バーグスマらに師事。手拍子や会話、演説、街の騒音さえも採り入れて生み出される旋律は、誕生から半世紀を超えた今も国籍や世代を超えて支持されている。
  きっかけはテープを使ったパフォーマンスを考えたことだった。同じ言葉を吹き込んだテープを同時に再生する。最初は左右のヘッドフォンから同じ音が聞こえるが、次第にズレが生じて残響のようになる。「音が左から右の耳へ、腕を通って体を振動させる。凄いと思いました」。こうしたフェーズのズレにインスピレーションを得て生み出されたのが初期の傑作「イッツ・ゴナ・レイン」(1965年)や「カム・アウト」(1966年)だ。
  反復と輪唱が持つダイナミズムを取り入れた手法は、アフリカやインドネシアの伝統音楽にも見出されることを知り、70年代には、アフリカ・ガーナでドラムを学び、またバリ島のガムラン音楽を研究した。この後に生まれたのが最高傑作の一つといわれる「18人の音楽家のための音楽」(1974年)。これでグラミー賞を受賞した。
  この後、ユダヤ人であるルーツを探る旅が始まる。ニューヨークとイスラエルでヘブライ語聖書の伝統的詠唱法を学び、「言葉が生む旋律」を再発見して新たな扉が開かれた。1988年、第二次大戦前後の米国とホロコーストが主題の「ディファレント・トレインズ」を発表。
  「ホロコーストを音楽にするのは、太平洋を飲み干すようなもの。巨大すぎて不可能だと思いましたが、その場を生き延びた人たちの『言葉の旋律』がこれを可能にしてくれました」
  1993年にはパートナーでビデオ・アーティストのベリル・コロットらと、「21世紀のオペラはこうあるべき」(タイム誌)と評された作品、「ザ・ケイヴ」を発表。言葉と映像と音楽が密接に融合した作品で現代音楽の地平を切り拓き続けている。その他、最近の作品には、オペラ「スリー・テイルズ」(2002年)、9.11の真相を追ってパキスタンで取材中に亡くなった記者ダニエル・パール氏へのオマージュ「ダニエル・バリエーション」(2006年)などがある。70歳を迎えた2006年は、欧米各地で記念コンサートを開催。2008年には武満徹作曲賞の審査員を務める。

略歴 年表

1936
アメリカ・ニュヨークで生まれる
1957
コーネル大学哲学科卒業
1958
ジュリアード音楽院でウィリアム・バーグズマ、ヴィンセント・パーシケッティに学ぶ
1963
カリフォルニアのミルズ・カレッジでダリウス・ミヨー、ルチアーノ・ベリオに師事、修士号
1970
ガーナ大学アフリカ研究所で打楽器を学ぶ
1971
アフリカ音楽の影響を受けた「ドラミング」を発表
1973-74
シアトルでバリ島のガムラン音楽を学ぶ
1974-76
「18人の音楽家のための音楽」発表
1976
ニューヨークとエルサレムでヘブライ語聖書の伝統的なカンティレーション(詠唱法)を学ぶ
1984
初の大オーケストラ作品「砂漠の音楽」を発表
1990
クロノス・カルテットの委嘱作品「ディファレント・トレインズ」(1988)でグラミー賞
1991
自身のアンサンブルを伴って初来日公演
1993
ヴィジュアル・ミュージック・シアター「ザ・ケイヴ」を世界各地で巡回公演(97年東京公演)
1999
「18人の音楽家のための音楽」で2度目のグラミー賞
フランス政府から芸術文化勲章コマンドール章
2002
クローン牛ドリーなどを取り上げたビデオ・オペラ「スリー・テイルズ」を発表
  • ニューヨークの自宅にて

  • ニューヨークの自宅にて

  • ニューヨークの自宅にて

ニューヨークの自宅にて
©The Sankei Shimbun 2006

ニューヨークの自宅にて
©The Sankei Shimbun 2006

ニューヨークの自宅にて
©The Sankei Shimbun 2006