第25回
2013年
絵画部門
Michelangelo Pistoletto
ミケランジェロ ・ ピストレット
鏡のように磨かれた金属板に人物などを描いた《ミラー絵画》シリーズで世界的名声を得た。鏡面には見る人や周囲の空間が映り込み、作品と一体化する。過去と現在、二次元と三次元が交錯する表現は、彼のその後の作品や芸術理論の根底となる。イタリア北部の町ビエッラに生まれ、1950年代から絵画に取り組む。自画像を描く際、周囲の空間に目を向けたことが《ミラー絵画》に発展。1960年代には日常的な素材をアートに変容させる前衛運動、アルテ・ポーヴェラの中心的作家となり、現在までイタリアの現代美術を牽引する。1998年には、ビエッラで遊休施設化していた19世紀の繊維工場を改修し、アートをさまざまな社会活動に結びつける実験的施設「チッタデッラルテ」(ピストレット財団)を開設。芸術の創造性による社会の発展を模索している。2013年4月から9月まで、ルーヴル美術館で回顧展が開かれた。
略歴
ルネサンスの時代から「絵画は鏡のようなもの」といわれてきたが、鏡そのものに絵画を描く発想をしたのは、ピストレットが初めてとみられている。丁寧に磨き上げられ、鏡面になったステンレス板に人物などを描いた《ミラー絵画》で、世界的に有名になった。
鏡面には作品を見る人や周囲の空間が映り込み、描かれたモチーフとぴったり一体化する。時間と空間が固定されたそれまでの絵画とは異なり、《ミラー絵画》では過去と現在、二次元と三次元が混じり合う。現実と創造されたイメージが交錯し、対比される表現は、彼のその後の作品や芸術理論の根底となる。
イタリア北部の町ビエッラの生まれ。絵画修復家だった父のアトリエで手伝いを始め、14歳の時に自画像を描いたことが芸術人生のスタートとなった。自らのアンデンティティを追求しようと描き出した自画像だったが、それには自分だけでなく、自分を取り巻くものも知らなければと考え、自画像の周囲の空間に興味を持った。
自画像の背景は銀、金、銅と変化していき、光沢のある黒を背景にしたとき、そこに反映が現れるのを見た。映り込む世界との対比の中、自らのアイデンティティを理解することができた。この体験が《ミラー絵画》の概念に結びつく。
豊田市美術館(愛知県)にあるオブジェの代表作《ぼろぎれのヴィーナス》(1967)でも、生活で使い古されたぼろぎれの山と、永遠の美の象徴であるヴィーナスの石膏像とを対立させ、過去と現在、芸術と日常を対比させている。
1960年代には、絵の具やカンヴァスなど伝統的な画材から離れ、木や石、布など日常的な素材を使用してアートを制作する、イタリアを中心とした前衛運動、アルテ・ポーヴェラの主導的作家となる。
1980年代初めからはポリウレタンや大理石を使った彫刻を発表するなど、創造の意欲はとどまることを知らず、イタリアの現代美術の牽引役という位置付けは現在まで変わることがない。
1998年には、ビエッラで遊休施設化していた19世紀の繊維工場を改修し、アートをさまざまな社会活動に結びつける実験的施設「チッタデッラルテ」(ピストレット財団)を開設。芸術を社会の責任ある立場に置き、芸術の創造性による社会のより良い発展を模索している。2013年4月から9月まで、ルーヴル美術館で回顧展が開かれた。
略歴 年表
-
チッタデッラルテで ≪自画像≫と
-
≪ぼろぎれのヴィーナス≫
-
≪アダムとイヴ≫
-
≪永遠のメトロキューブ≫
-
≪第三の天国≫
-
チッタデッラルテ