第33回
2022年
絵画部門
Giulio Paolini
ジュリオ・パオリーニ
長年、イタリア・トリノを拠点に活躍する美術家。実存主義思想と現象学の影響の中で、1960年代後半に生まれた芸術活動「アルテ・ポーヴェラ」の展覧会に参加し、主要作家の一人として知られるが、 その範疇に収まり切らない独自の志向を持つ。これに先立ち1960年代初頭から「絵画」を根本的に考察する作品を発表し、独自の境地を開く。「作品は芸術家の行為に先立って存在している」とし、絵の材料から透視図法、描かれるイメージ、過去の名品、絵をめぐる視線や展示空間に至るまで、絵画の構成要素を紐解きつつ、作品成立の根拠を問い続けてきた。日本での展覧会(1987年と1997年)や、世界各地の美術館・ギャラリーで個展を開催。オペラ・演劇のセットデザインも数多く手掛ける。フランス芸術文化勲章オフィシエ(2002年)など受賞(章)多数。
略歴
現代イタリアを代表する美術家。ジェノヴァに生まれ、幼少期をベルガモで過ごし、8歳の時、子供絵画コンクールで優勝するなど早くから画才に恵まれた。1952年、家族と共にトリノに移り、現在も同地で暮らす。
デザイナーのブルーノ・ムナーリ、アルベ・スタイナーらが活躍し、イタリアのグラフィック文化が花開いた1950年代、州立産業技術学校でグラフィックや写真を学んだことが、後の創作に影響を与えたという。
1960年、最初の作品《幾何学的図面》を制作。「絵画」を定義づける人間の認識構造に興味を持ち、絵画そのものを追究。1964年、ローマのギャラリーで開いた初個展で注目された。
1960年代後半には親友で批評家、ジェルマーノ・チェラントが先導した芸術活動「アルテ・ポーヴェラ」の展覧会に参加。理論や言説を共有し、その重要作家と見なされることも多いが、パオリーニの芸術はその範疇に収まりきらない独自の志向を持つ。
美術史の名品から着想し、見る者と見られる物、時間や空間、美術をめぐる枠組みなどに揺さぶりをかける作品が目立つ。ルネサンス期の画家ロレンツォ・ロットが描いた若者の肖像画を原寸大写真で展示することで、画中の若者が見つめる画家の存在を暗示する《ロレンツォ・ロットを見る若者》(1967年)や、同じギリシア彫刻の石膏像2つを対面配置し、両者を隔てる空白まで表現したという《ミメーシス(模倣)》(1975-76年)などは、その代表例だろう。
絵画や写真、彫刻など多様な表現で構成される展示は、いずれも詩的で内省的な空間を生み出している。世界各地で展覧会を開き(日本では1987年と1997年)、ヴェネツィア・ビエンナーレやドクメンタといった国際展にも参加してきた。
2020-21年に80歳記念の回顧展、2022年もフィレンツェのノヴェチェント美術館で個展『現在とはいつですか?』(9月7日まで)を開催。「私は常に作品に自分を投入することを避けてきたが、控え目であることは、不在というわけではない」と語る。
演劇・オペラの舞台デザインでも独創性を発揮し、近年ではナポリのサン・カルロ劇場で上演されたワーグナーのオペラ『ワルキューレ』『パルジファル』のセットで高い評価を受けた。
「仕事と休息の区切りはない。芸術家にとって仕事は休息」と、今も精力的に創作活動を続けている。
略歴 年表
特別展『近代イタリア美術と日本―作家の交流をめぐって』(大阪・国立国際美術館)参加
『イタリアン・アイデンティティ展』(ジョルジュ・ポンピドゥー国立芸術文化センター)参加
-
《幾何学的図面》1960年
-
《ミメーシス》1975-1976年
-
《光年》2000-2001年
-
個展『現在とはいつですか?』2022年
-
トリノのアトリエにて 2022年
-
《ロレンツォ・ロットを見る若者》1967年