第20回
2008年
彫刻部門
Ilya & Emilia Kabakov
イリヤ&エミリア・カバコフ
夫妻で、絵画やオブジェ、言葉、音などを用いた「トータル・インスタレーション」という表現手法で国際的に活躍する。イリヤは旧ソ連の社会主義体制当時、「学んだことを活かせる唯一の分野だった」絵本画家としてキャリアをスタート。緻密な画風で評価を確立するが、当局の検閲から逃れた「非公式芸術活動」の中心的存在でもあった。1980年代以降、西側で作品展が相次いで開かれるようになり、「共同キッチン」「トイレ」などソ連当時の生活をユニークな視点で風刺、批評した作品群で注目を集めた。「異常な状況の中で普通の生活をしようと努力している人々」が、夫妻の一貫したテーマ。「普通の人が持つ感情や反応と連携している」という姿勢が、時代や国境を越えて支持されるゆえんだろう。
略歴
旧ソ連の日常生活などを独自のユーモアで再現した「トータル・インスタレーション」作家として知られる。言葉、空間、イメージ、音、そして鑑賞する人の反応までが要素となる「トータル・インスタレーション」は最も注目されている表現手法だ。
夫妻ともに旧ソ連(現ウクライナ共和国)生まれ。イリヤはモスクワ芸術大で学んだ後、児童書の挿絵画家になり、内外で高い評価を得るが、「生計を立てるための手段でした」と振り返る。当時はあらゆる芸術活動が検閲対象で児童書の挿絵も例外でなかったからだ。「本の挿絵を描いたのは私でなく、(検閲する編集者の視点をもった)彼でした」
同時にイリヤはモスクワを拠点にした芸術家の家とアトリエだけで行われていた「地下芸術活動」のリーダー的存在でもあった。「生き残るためでなく、自分のためにとっておいた生活」と語るように、この「非公式芸術家」こそ、ソ連時代の本職だった。抑圧された状況のなかで育まれた観察眼や思索が創作活動のベースにもなったのは歴史の皮肉、もしくは芸術の逆襲といえるかもしれない。
それだけに「芸術には生活を向上させる責任があります」(エミリア)という言葉は重みを持つ。エミリアはモスクワで音楽と文学を学んだ後、1973年にイスラエルに移住。75年からニューヨークでキュレーターとして働いた。
イリヤは1980年代から国外での作品発表が増え始め、88年には浴室、キッチン、トイレを共同で使用する旧ソ連のアパートに住む10人の生活を描いたインスタレーション「10の人物」が大きな反響を呼ぶ。89年以降、ニューヨークに拠点を移し、エミリア夫人との共同制作を本格化。世界各地で大規模プロジェクトを年間40のペースで手掛けてきたという。
夫妻の追求するテーマは一貫して「普通の人、ときには全く異常な状況下で普通の生活を送ろうとする人」。「だれでもヒーローや成功者になる前は、小さく、惨めな存在で、結局のところ、みな一般大衆なのです」と言う。
親日家としても知られ、日本を「伝統的で現代的。芸術が文化の一部であることの理想的なモデル」と賞賛する。9月から10月にかけてモスクワの「メリーニコフ・ガレージ」などで、夫妻の大規模回顧展が、ロシア政府文化省、国立プーシキン美術館などの主催、大富豪ロマン・アブラモヴィッチの支援で開かれている。
略歴 年表
架空の作家の展覧会「美術館での出来事、あるいは水の音楽」開催
ドクメンタに出品
モスクワで大規模回顧展
略歴 年表 イリヤ
略歴 年表 エミリア
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アトリエにて
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アトリエにて
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アトリエにて
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アトリエにて
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棚田 大地の芸術祭