トップ 受賞者一覧 ヴィヤ・セルミンス

第34回

2023年

絵画部門

Vija Celmins

ヴィヤ・セルミンス

 海、夜空、砂漠、蜘蛛の巣など、自然界に存在するものを題材に鉛筆や木炭で描いた緻密な絵画やドローイングで知られる。ソ連軍の侵攻を受け、5歳の時に一家で母国ラトビアを離れドイツの難民キャンプで過ごした後、1948年に米国に移住した。日用品や自然を題材とする一方、幼少期の第二次大戦や難民キャンプでの経験を彷彿とさせるモチーフの作品を発表。絵画、ドローイング、版画はどれも写真に基づき、それがフィルターとして作用、距離と静けさを感じさせる作品の主題ともなっている。写真と絵画の関係性をも示唆する表現で、現代美術界において独自の世界を切り拓いた。作品はニューヨーク近代美術館(MoMA)など著名美術館が収蔵。2021年、ニューヨーク・カーネギー財団が称える「偉大な移民」の一人に選ばれた。ニューヨーク州ロングアイランドを拠点に活動している。

略歴


 ニューヨーク・ロングアイランド在住の女性画家。緻密で繊細な筆致の絵画、ドローイングで知られる。ソ連軍の侵攻を受け、5歳の時に一家で母国ラトビアを離れドイツの難民キャンプで過ごした。1948年に米国に移住し、インディアナ州インディアナポリスで暮らした。
 当初は英語を話せず、絵を描くことに夢中になり、やがて本格的に美術を学ぶようになった。1965年にカリフォルニア大ロサンゼルス校で美術学修士号を取得。その後、カリフォルニア州立大、カリフォルニア大アーバイン校などで絵画や彫刻の講師を務め、1980年代以降はニューヨークで活動する。
 1960年代に幼少期の第二次大戦や難民キャンプでの経験を彷彿とさせるモチーフの作品を発表。作品の政治的な意図は否定しながらも、戦争のトラウマや戦中・戦後に移住を繰り返した経験について、「どんな影響かよくわからないが、作品には影響があったと思う」と話す。
 戦闘機や銃、暴動など戦争や対立をモチーフとした油彩画を発表する一方、1960年代後半から70年代は油彩を離れ、鉛筆やテレビ、ランプ、消しゴムなどの日常の品々を単品で描いた静物画・立体を制作。鉛筆や木炭を使い、原子爆弾投下後の広島、ビキニ環礁での水爆実験を撮影した写真を基にした作品や、雲や海、星座、月面、砂漠、蜘蛛の巣など自然に接近した場面を精巧に描いた。
 絵画、ドローイング、版画はどれも写真に基づき、それがフィルターとして作用、距離と静けさを感じさせる作品の主題ともなっている。写真と絵画の関係性をも示唆する表現で、現代美術界において独自の世界を切り拓いた。
 作品はニューヨーク近代美術館(MoMA)、ロンドンのテート・モダンなど世界の著名美術館が収蔵。日本では2003年『ハピネス』展(森美術館)に出展、2014年横浜トリエンナーレでも紹介された。2023年5月にハンブルク美術館でゲルハルト・リヒター(1997年世界文化賞受賞者)との二人展を開催し、注目を集めた。
 1960年代よりイェール大やグッゲンハイム、マッカーサーなど数々のフェローシップを受けた他、ロズヴィータ・ハフトマン賞(スイス)、アメリカ芸術文学アカデミー金メダルなど受賞。2021年、ニューヨーク・カーネギー財団が称える「偉大な移民」の一人に選ばれた。

略歴 年表

1938
ラトビア・リガ生まれ
1948
ドイツ難民キャンプを経て、アメリカに移住
1961
イェール大学サマーセッション・フェローシップ
1962
ジョン・ヘロン・アート・インスティテュート(インディアナポリス)美術学士
1965
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)美術学修士号
1970-71
『ペーパーワークス』展に出展(ニューヨーク近代美術館)
1976
『マトリックス展』に出品(コネチカット、ワズワース・アテネウム美術館)
1980
グッゲンハイム・フェローシップ(アメリカ)
1992-93
『ヴィヤ・セルミンス展』(ペンシルバニア大学現代美術研究所)
1995
アメリカ芸術文学アカデミー芸術文学賞
1997
マッカーサー・フェローシップ(アメリカ)
2002
『ヴィヤ・セルミンスの版画』展(メトロポリタン美術館)
2003
ヴェネツィア・ビエンナーレ
『ハピネス:アートにみる幸福への鍵 モネ、若冲、そしてジェフ・クーンズへ』に出展(東京・森美術館)
2006-07
初のドローイング回顧展(ポンピドゥー・センター)、ハマー美術館(ロサンゼルス)へ巡回
2009
ロズヴィータ・ハフトマン賞
2010-11
『ヴィヤ・セルミンス: テレビと災害1964-1966』(ロサンゼルス郡立美術館、ヒューストンのメニル・コレクションに巡回)
2013
インディアナ大学名誉美術博士号
2014
ヨコハマトリエンナーレに≪銃を撃つ手≫(1964)他を出展
ラトビア・リガで初の回顧展
2016
アメリカ芸術文学アカデミー金メダル(アート/グラフィックアート部門)
2016-17
『宇宙と芸術展』に出展(東京・森美術館)
2018-20
回顧展『ヴィヤ・セルミンス: To Fix the Image in Memory』(サンフランシスコ近代美術館、メトロポリタン美術館)
2021
「偉大な移民」に選出(ニューヨーク・カーネギー財団)
2023
ゲルハルト・リヒターと二人展『ダブル・ビジョン』(ハンブルク美術館)
  • 《無題(櫛)》と共に 1970年

  • 《6パーツからなる絵画(部分)》
    1986-87年 / 2012-16年

  • 《夜空(黄土色)》 2016年

  • ロングアイランドのアトリエにて 2023年5月

  • 《降雪 #1》 2022-24

  • ハンブルク美術館の展覧会にて 2023年5月

《無題(櫛)》と共に 1970年
Courtesy of Vija Celmins Studio

《6パーツからなる絵画(部分)》1986-87年 / 2012-16年
© Vija Celmins
Photo: Courtesy Matthew Marks Gallery, Collection Glenstone Museum

《夜空(黄土色)》 2016年
© Vija Celmins
Photo: Courtesy Matthew Marks Gallery

ニューヨーク州ロングアイランドのアトリエにて 2023年5月
© The Japan Art Association / The Sankei Shimbun

《降雪 #1》 2022-24
Oil and alkyd on linen; 132 x 184 cm
© Vija Celmins, Courtesy of Matthew Marks Gallery

ハンブルク美術館の展覧会にて 2023年5月
Photo: Mauricio Bustamante