第35回
2024年
絵画部門
Sophie Calle
ソフィ・カル
フランスを代表するコンセプチュアル・アーティスト。他者へのインタビューを通して、詩的な要素を含む物語を探求し、写真と文字を組み合わせた作品を数多く発表してきた。見知らぬ人を自宅へ招き、自身のベッドで眠る様子を描いた《眠る人々》(1979年)は、自身が定めたルールに基づいて他者の人生に向き合った作品で、初の芸術作品となった。代表作には、遭遇した人を尾行してその行動を捉えた《ヴェネツィア組曲》(1980年)、拾ったアドレス帳に記載されている人物をたどった《アドレス帳》(1983年)、目の見えない人々に「美しいもの」について尋ねた《盲目の人々》(1986年)などがある。また、自分の人生も作品として取り上げ、日本滞在中の失恋体験による痛みを表現した《限局性激痛》(1999-2000年)は、20年後に再び日本で展示された。2012年にフランス芸術文化勲章コマンドールを受章。2024年11月に東京で展覧会を開催。
略歴
フランスを代表するコンセプチュアル・アーティストの一人。他者へのインタビューを通して詩的な要素を含む話を探求し、写真と文字を組み合わせた作品を発表してきた。人生や日常の空間をアートに昇華させる斬新な作風は、世界中で注目され、2012年にはフランス芸術文化勲章コマンドールを受章した。
アーティストとしての原点は、他者の声や姿を追求する探求心にある。初期作品の《眠る人々》(1979年)では、見知らぬ人を自宅に招き、自身のベッドで眠る様子を撮影し、それにインタビューを加えた。写真とテキストによる構成だが、芸術作品と意識していたわけではなく、自分で決めた「ゲーム」に基づいて他者の人生に向き合った過程で自然に生まれたという。
代表作の一つ《ヴェネツィア組曲》(1980年)は、パリの街中で出会った人をヴェネツィアまで「尾行」し、その行動を撮影したもの。出身地であるパリを再認識するのが目的で、この作品もアートのつもりではなかったという。20代の頃、海外での長旅を終え、戻ってきたパリで何をすればいいかわからず、日々に方向性を持たせるために始めた尾行という行為が芸術につながった。ただ、危険と隣り合わせの行為でもあり、その後は別の形で、他者の人生を追い、耳を傾ける作風を続けている。
1986年には《盲目の人々》で、目が見えない人々に「美しいと思うもの」を尋ねた。「彼らの返事は海や自然、俳優のアラン・ドロンといった、見たことがないものだった。視覚のない人が持つ“視覚的な想像”を想像することは非常に興味深い経験だった」と明かす。
一方で、自分の人生をさらけ出す作品にも果敢に挑戦してきた。日本滞在の経験を基に、失恋による痛みを写真や言葉で表現した《限局性激痛》(1999-2000年)は日本で特に人気があり、20年後にも再展示された。「皆が同じような経験をし、同じ痛みを持っている」ことが、多くの女性の共感を呼び、癒しになった理由だと語る。一貫して作品の評価を鑑賞者に委ね、「自らの芸術を描写するのは鑑賞者の仕事」と考えている。
現代では、SNSを通じて多くの人が自分や他者の人生を公開しているが、自分の作風が時代を先取りしていたと感じつつも、SNSの影響は受けていないと言う。ただ、「アイデアを実現するためにSNSが必要になることもあるかもしれない」とも話す。世界文化賞受賞のための来日で、新たなアイデアが生まれることを期待している。
略歴 年表
≪ヴェネツィア組曲≫
映像作品『海を見る』 (2011)上映(渋谷スクランブル交差点)
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ソフィ・カル《眠る人々−グロリア・Kとアン・B》1980年
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ソフィ・カル《ヴェネツィア組曲》1980年
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ソフィ・カル《眺めのいい部屋》2003年
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杉本博司、青柳龍太と共に、靖国神社の蚤の市に参加(2013年)
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ソフィ・カル《どうしてあの子だけ?》2018年
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ソフィ・カル《埋葬布》 2018年
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『「ソフィ カル―限局性激痛」原美術館コレクションより』展 展示風景
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パリのアトリエにて 2024年5月