トップ 受賞者一覧 ヴィム・ヴェンダース

第33回

2022年

演劇・映像部門

Wim Wenders

ヴィム・ヴェンダース

Photo: Beata Siewicz

 数多くの映画賞を受賞している映画監督兼写真家。冷戦下の西ドイツで育つ。画家を目指してパリに渡るも「シネマテーク・フランセーズ」の常連になり、映画に熱中。1960年代から映画製作者として働き始め、ロードムービーの名手としても知られる。『パリ、テキサス』がカンヌ国際映画祭パルム・ドール、『ベルリン・天使の詩』がカンヌ国際映画祭監督賞に輝いた。大の親日家で、小津安二郎監督の影響を受け、オマージュ作品『東京画』を製作。舞踊家・振付家ピナ・バウシュ(1999年演劇・映像部門)のドキュメンタリー『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』は3D映画の最高峰とされる。「究極のロードムービー」という『夢の涯てまでも』が一番好きな作品と評する。最新作は、安藤忠雄氏らの設計による東京・渋谷の公共トイレが舞台で、清掃員役の役所広司を主演に2022年秋に撮影、2023年に公開予定。

略歴


 数多くの映画賞を受賞している映画監督兼写真家。敗戦間もない廃虚の広がるドイツに医者の息子として生まれ、冷戦下の西ドイツで育った。米国に憧れ、子供時代はアメリカン・コミックスなどに夢中になり、1978年から7年間、米国に滞在した。
 大学では医学を学ぶが断念。絵に熱中し、画家を目指してパリに渡るが、旧作を上映する「シネマテーク・フランセーズ」の常連になり、そこで黒澤明監督の作品など1千本以上の世界中の名作を鑑賞したという。
 1960年代から映画製作者として働き始め、米国で初めて撮影した『都会のアリス』(1974年)をはじめ、『まわり道』(1975年)、『さすらい』(1976年)と、旅がテーマの「ロードムービー三部作」を製作。「米国に別れを告げる作品」という『パリ、テキサス』(1984年)でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞。このサウンドトラックは、米国のギタリスト、ライ・クーダーが即興で作った。
 ベルリンの壁が崩壊する2年前に製作し、カンヌ国際映画祭監督賞を受賞した『ベルリン・天使の詩』(1987年)については、「(壁崩壊は)誰もが夢にも思っていなかった。もはや存在しないベルリンの歴史的ドキュメント」と振り返る。
 親日家としても知られ、1977年の初来日以来、来日する度に、「いつも故郷に帰ってきたような気持ちになる」と言う。特に、傾倒する小津安二郎監督から大きな影響を受け、オマージュ作品『東京画』(1985年)を製作した。
 自身の一番好きな作品には、日本など9か国20都市で撮影した『夢の涯てまでも』(1991年)を挙げる。「究極のロードムービー」と評するが、当初の劇場公開版が短くカットされたことから、最終的には2時間以上も長い『ディレクターズカット版』を公開した。
 長年交流のあった舞踊家・振付家、ピナ・バウシュが亡くなった2年後に完成させた作品『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』(2011年)は、3D映画の中で最高峰と絶賛されている。
 「映画、写真などのライフワークをまとめ、一般の人々がアクセスできるようにする」ため、写真家の妻、ドナータと共にヴィム・ヴェンダース財団を設立(2012年)、20本の映画を復元、デジタル化した。さらに、「ヴィム・ヴェンダース奨励金」で若手の映画製作者を支援している。
 最新作は、安藤忠雄氏らの設計で東京・渋谷区内に設置された公共トイレが舞台で、清掃員役の役所広司を主演に2022年秋に撮影、2023年に公開予定。

略歴 年表

1945
ドイツ・デュッセルドルフ生まれ
1966
画家を目指しパリへ渡り、映画と出会う
1967
帰国後、ミュンヘンテレビ映画大学入学、映画監督として活動開始
1970
『都市の夏/キンクスに捧ぐ』で長編デビュー
1972
『ゴールキーパーの不安』(1971)でヴェネツィア国際映画祭国際映画批評家連盟賞
1976
制作会社「ロード・ムービーズ」設立
1982
『ことの次第』でヴェネツィア国際映画祭金獅子賞
1984
『パリ、テキサス』でカンヌ国際映画祭パルム・ドール、英国アカデミー賞最優秀監督賞
ベルリン芸術アカデミー会員
1987
『ベルリン・天使の詩』でカンヌ国際映画祭監督賞
1991
『夢の涯てまでも』(第4回東京国際映画祭特別招待作品)
1993
フランス芸術文化勲章コマンドゥール
1996-2020
ヨーロッパ映画アカデミー会長
1999
『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』でアカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞ノミネート、ドイツ映画賞金賞(2000)
2000
『ミリオンダラー・ホテル』でベルリン国際映画祭審査員賞銀熊賞
2003
ドイツ写真学会文化賞
2004-17
ハンブルク美術大学映画学部教授
2005
プール・ル・メリット勲章(ドイツ)
2006
ドイツ連邦共和国功労勲章
「ヴィム&ドナータヴェンダース写真展~尾道への旅」(東京)
2011
『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』でヨーロッパ映画賞ドキュメンタリー賞、アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞ノミネート
2012
ヴィム・ヴェンダース財団設立
2014
『セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター』でカンヌ国際映画祭ある視点部門特別賞、アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞ノミネート
2015
ベルリン国際映画祭金熊名誉賞
2017
ジョルジュ・ビゼーの『真珠採り』でオペラ舞台監督デビュー(ベルリン国立歌劇場)
2022
オックスフォード大学名誉博士号
  • 『ベルリン・天使の詩』のブルーノ・ガンツ

  • 『夢の涯てまでも ディレクターズカット版』ウィリアム・ハートと笠智衆

  • ギタリスト、コンパイ・セグンドと

  • 安藤忠雄、役所広司と

  • 『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』
    撮影現場

  • セバスチャン・サルガドと

『ベルリン・天使の詩』(1987年)のブルーノ・ガンツ
© 1987 Road Movies - Argos Films
Courtesy of Wim Wenders Stiftung - Argos Films

『夢の涯てまでも ディレクターズカット版』(1994年)のウィリアム・ハートと笠智衆
© 1994 Road Movies - Argos Films
Courtesy of Wim Wenders Stiftung - Argos Films

『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(1999年)の撮影現場で
キューバ出身のギタリスト、コンパイ・セグンドと
© 1999 Road Movies
Courtesy of Wim Wenders Stiftung

安藤忠雄、役所広司と
THE TOKYO TOILET アート・プロジェクトの発表会見で 2022年

『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』(2011年)撮影現場
© NEU ROAD MOVIES GmbH
Photo: Donata Wenders

セバスチャン・サルガドと
『セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター』(2014年)打合せ
© 2014 Docia Films - Amazonas Images