第29回
2017年
絵画部門
Shirin Neshat
シリン・ネシャット
ニューヨークを活動拠点とするイラン人女性映像作家。写真、ビデオ・インスタレーション、映画とさまざまな表現手段を駆使し、現代イスラム社会を生きる女性たちの政治的、社会的、心理的に抑圧された状況を描写。イランだけに留まらず普遍的な問題へと昇華し、女性のあり方を模索してきた。17歳で米国へ留学、大学で美術を学ぶ。1979年のイラン革命で疲弊した故郷の背景にあるものを見極めようと、1993年頃から本格的に芸術活動をスタート。代表作は写真連作《アラーの女たち》(1993−97)、ビデオ・インスタレーション『荒れ狂う』(1998)など。2005年ヒロシマ賞を受賞。初の長編映画監督作『男のいない女たち』(坂本龍一が音楽を担当)は2009年ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)を受賞した。今年5月、「初めてアメリカ文化に焦点を当てた」という映画・写真の『ドリーマーズ』展を開催した。
顔写真撮影:Lina Bertucci
略歴
ニューヨークを活動拠点とするイラン人女性映像作家。写真、ビデオ・インスタレーション、映画とさまざまな表現手段を駆使し、現代イスラム社会を生きる女性たちの政治的、社会的、心理的に抑圧された状況を描写。イランだけに留まらず普遍的な問題へと昇華し、女性のあり方を模索してきた。
親米政権下で西洋的な価値観を持つ医師の父と専業主婦の母は、兄や姉と同様に17歳のネシャットを米国へ留学させた。ネシャットはカトリックの高校に入学し、厳しい寄宿舎生活を送った後、大学で美術を学んだが、能力に限界を感じ、卒業後は米国内で芸術関係の職などを転々とした。
1979年に反体制宗教指導者、ホメイニ師によるイラン革命が勃発、反米政権の誕生で状況は一変した。米国とイランは国交断絶、米国でも激しい反イラン感情が湧き起こる中、ネシャットは帰国を断念せざる得なくなる。
1990年、自由と民主主義という西洋的な価値観を身につけ、12年ぶりに帰国したネシャットは、何もかもが疲弊しきった故郷の憔悴ぶりに衝撃を受け、その背景にあるものを見極めようと、再び芸術の世界へ戻る決意を固めた。
なかでも女性に対し、宗教上の理由で社会的な自由が厳しく制限されたことに強い違和感を覚え、創作意欲をかき立てられた。「イスラム革命がもたらした女性の現実の問題に焦点を絞ったのです」
その表現手法は独特だ。例えば、一躍脚光を浴びた写真シリーズ《ヴェールを脱ぐ》と《アラーの女たち》。チャドルを身にまとい、時には銃を手にした女性が、人前で見せても咎められない目、手、足を露わにし、フェミニストが書くペルシャ語の詩などで皮膚を覆ってしまう。
男と女、光と影、白と黒と相反した概念を並置することで、物事の奥にある真理に迫っていくスタイルを貫く。「私の作品の中枢となる概念。結局は米国に住むイラン人として、私自身が何者かという現実的な命題に行き着くのです」
その後、長篇映画にも進出。坂本龍一が音楽を担当した初監督作品『男のいない女たち』で、2009年ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)を受賞した。
今年5月に「初めてアメリカ文化に焦点を当てた」という映画・写真の『ドリーマーズ』展を開催。また、今夏のザルツブルク音楽祭でオペラ『アイーダ』の演出を手掛ける一方、アラブ世界で最も有名なエジプト人女性歌手をめぐる新作映画を製作するなど、小柄な体から発散されるエネルギーは衰えを知らない。2005年ヒロシマ賞を受賞。
略歴 年表
ホイットニー美術館で個展(ニューヨーク)
第3回光州ビエンナーレで大賞
サーペンタイン・ギャラリーで個展(ロンドン)
モントリオール現代美術館で個展
エルミタージュ美術館で『ビル・ヴィオラとシリン・ネシャット』展(サンクトペテルブルグ)
グラッドストーン・ギャラリーで『ドリーマーズ』展(ニューヨーク)
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『ロジャ・シリーズ/アンタイトルド』
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《ドリーマーズ・シリーズ/エレン》
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《ドリーマーズ・シリーズ/ケン》
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グラッドストーン・ギャラリーにて
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ニューヨークの自邸にて
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ニューヨークの自邸にて