第34回
2023年
建築部門
Diébédo Francis Kéré
ディエベド・フランシス・ケレ
ドイツ・ベルリンを拠点に活動し、故国ブルキナファソなどアフリカを中心に、土地の知恵や素材を活かした建物で知られる建築家。気候風土に寄り添い、地元の人々が自ら修繕もできる建築は、地球環境の悪化や資源の枯渇などが深刻化する今、持続可能なあり方として注目を集める。木工技術の習得のため奨学金を得てドイツに渡り、ベルリン工科大学で建築を学んだ。学校のない故郷の村ガンドで教育の恩恵を分かち合いたいと、「ケレ財団」を設立して資金を集め、地元の人々の労働力や資源を活用しながら、ほぼすべてを手作業で『ガンド小学校』(2001年)を完成させた。ベナンで建設中の『国会議事堂』は、アフリカにおいて民主的な話し合いの場を象徴する「大樹」がモチーフ。近年はアフリカだけでなく、アメリカなど世界各地でプロジェクトを成功させている。2022年、アフリカ出身で初めてプリツカー建築賞を受賞した。
略歴
故国ブルキナファソを中心にアフリカ各地で、地元の材料や伝統的な知恵をいかしながら、サステナブル(持続可能)な建築を数多く手掛けてきた。拠点はドイツ・ベルリン。近代主義の限界やほころびが顕在化する中、「前近代的」な手法を尊重し、社会の課題解決を目指す仕事で国際的に注目されている建築家だ。
故郷の小村ガンドには学校がなく、7歳で家族と離れ、町に住む親戚の元で通学した。教室は暗くて蒸し暑く、学びに適した環境ではなかった。「より良い建物を作りたい」という願いが、建築家を目指すきっかけとなったという。
少年期から大工修業をし、奨学金を得てドイツに留学、木工技術などを学んだ。さらにベルリン工科大学で建築を専攻(2004年修了)。学業と並行し、故郷の村に学校を建てることを目標に、資金調達のため「ケレ財団」を設立。地元コミュニティーと目標を共有し、住民に建設作業の訓練を行った。
初の作品『ガンド小学校』(2001年)はケレの理念を明確に示すものだ。地元民は当初、ガラスや鉄こそ先進的で、地元の材料は原始的と捉えていたが、ケレは、欧米の建物をそのまま持ち込んでも気候風土に合わず、自分たちで維持もできないと説得し、地元で多用されてきた粘土を採用した。
粘土をセメントで固めた室内は、強い日差しを遮り、ひんやり保たれる。自然光も適度に採り入れ、明るく、自然換気もできる。「人々が喜び受け入れているのを見て、自分はなんて恵まれているのだろう、もっとこんな仕事がしたい」と勇気を得たという。村にはその後、教員宿舎や中学校、図書館も完成。地元民に職業的機会を与え、技能を身につけさせることで、地域全体が活性化する成果も上げている。
ブルキナファソでは他に『外科診療所・保健センター』(2014年)、『リセ・ショルジュ中学校』(2016年)なども手掛け、セネガル、ケニアなどでもプロジェクトを担当。アフリカでは、大樹の下に集まり話し合う伝統があることから、建設中の『ベナン国会議事堂』は「大樹」がモチーフとなっている。
アフリカ以外では国際赤十字・赤新月博物館の常設展示(2012年、スイス)、『サーペンタイン・パヴィリオン』(2017年、英国)、ティペット・ライズ・アートセンターの集会所『ザイレム』(2019年、米国)など。
2017年からミュンヘン工科大教授。2010年にBSIスイス建築賞、2022年にアフリカ出身で初めてプリツカー建築賞を受賞した。
略歴 年表
アメリカ建築家協会名誉フェロー
プリンス・クラウス賞(オランダ)
アーノルド・W・ブルナー記念賞(アメリカ芸術文学アカデミー)
カナダ王立建築協会名誉フェロー
コーチェラ音楽芸術祭にインスタレーション『サルバレ・ケ(祝祭の家)』で参加(アメリカ・カリフォルニア州)
プリツカー建築賞(アメリカ)
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『ガンド小学校』2001年
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『リセ・ショルジュ中学校』2016年
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『ブルキナ工科大学』2020年
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ケレ建築事務所にて 2023年5月
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ケレ建築事務所にて 2023年5月
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『ベナン国会議事堂』外観の完成予想図