ウィリアム・ケントリッジ

William Kentridge

プロフィール

 木炭による素描をコマ撮りした「動くドローイング」と呼ばれる独自のアニメーションに、南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離政策)の歴史や社会状況を反映させ、1990年代から世界的な注目を集めてきた。「動くドローイング」は、木炭画を部分的に消しては描き加えていくという変化を一コマごとに撮影してつなげた動画。代表作の一つ『流浪のフェリックス』(1994)では、南アフリカの風景に溶けて見えなくなった陰鬱な歴史の痛みを見事に表出させた。独裁や植民地主義に反対し、その病理に迫ろうとする知的探求が作品群の底流をなす。最近は、第一次世界大戦に動員されたアフリカ兵の戦争参加を題材にした脱領域的な総合芸術などで高評価を得ている。2010年京都賞受賞。南アフリカからの世界文化賞受賞は、反アパルトヘイトの劇作家、アソル・フガード(2014年、演劇・映像部門)に次いで二人目。

詳しく

 木炭による素描をコマ撮りした「動くドローイング」と呼ばれる独自のアニメーションに、南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離政策)の歴史や社会状況を反映させ、1990年代から世界的な注目を集めてきた。
 リトアニアから南アフリカに移住してきたユダヤ系の家系で、祖父母も両親も弁護士。アパルトヘイトに反対する活動家を擁護する両親のもとで育った。“家業”とは違う芸術の道に進んだが、「法律に基づいた主張とは別の形で世界を理解し、世の中と道徳的な関係性を築くことができる」と話す。
 地元ヨハネスブルグの大学で政治学の学位を取得した後、パリで演劇を学び、一時は俳優を志す。南アフリカに戻り、30代後半に「動くドローイング」にたどりついた。
 「動くドローイング」は、木炭画を部分的に消しては描き加えていくという変化を一コマごとに撮影してつなげた動画。技術的に洗練された現代のアニメーションとは対照的で、素朴だが、時間の重厚性や寓意に満ちた表現性を獲得している。
 世界的な名声を得たシリーズ『プロジェクションのための9つのドローイング』(1989年から継続中)の中で自身も代表作に挙げる『流浪のフェリックス』は、南アフリカで初めて民主的な選挙が行われた1994年の作品。死体が風景から消えていく場面が印象的だ。
 「選挙後には祝杯を挙げることは分かっていたものの、その前に亡くなった人の記憶や犠牲にしたものは消え去るのだろう、というのが私の考えでした。同じように景色も、過去起きたことを覆っていくわけで、景色と記憶はとても似ていると思った」と語る。
 風景に溶けて見えなくなった陰鬱な歴史の痛みを表出させる一方、人の視覚や記憶は暫定的で不確実なものであることに気づかされる。
 最近は、オペラの演出や、音楽・ダンス・動画などが重層的に融合する脱領域的な総合芸術に意欲的だ。『ザ・ヘッド・アンド・ザ・ロード』(2018)は、第一次世界大戦で荷物担ぎとして動員されたアフリカ兵の戦争参加が題材。欧州の現代思想とアフリカの歌の伝統との交錯を描き、高い評価を得た。
 独裁や植民地主義に反対し、その病理に迫ろうとする知的探求が作品群の底流をなしている。2010年に京都賞受賞、2013年にフランス芸術文化勲章コマンドゥール受章、2017年にスペイン・アストゥリアス皇太子賞を受賞。南アフリカからの世界文化賞受賞は、反アパルトヘイトの劇作家、アソル・フガード(2014年、演劇・映像部門)に次いで二人目。

略歴

  1955 南アフリカ・ヨハネスブルグ生まれ
  1973-76 ヨハネスブルグのウィトワーテルスラント大学、政治学/アフリカ学
  1978 初のアニメーション『タイトル/テール』をサック、ハントと共同制作
  1981-82 パリのエコール・ジャック・ルコックで演劇を学ぶ
  1984 ベケット原作『カタストロフィ』の舞台監督、ウイッツ劇場
  1989 アニメーション『ヨハネスブルグ、パリの次に素晴らしい都市』制作
  1992 ビューヒナーの戯曲を原作とした舞台作品『ハイフェルドのヴォイツェック』制作・監督
  1993 ヴェネツィア・ビエンナーレ
  1996 シドニー・ビエンナーレ
  1997 ドクメンタ10
  1998 人形劇『ウリッセの帰還』のアニメーション制作、舞台監督
サンパウロ・ビエンナーレ
  1999 ヴェネツィア・ビエンナーレ
立川国際芸術祭’99
  2001 ヨコハマ・トリエンナーレ
  2002 ドクメンタ11
  2005 舞台作品『魔笛』のためのアニメーション制作、舞台デザインおよび監督
  2006 「カルティエ現代美術財団コレクション展」、東京都現代美術館
  2008 文化庁・京都国立近代美術館の招聘により来日、3回の講演を行う
  2009-10 京都国立近代美術館で大規模な個展、東京・広島へ巡回
  2010 ショスタコービィチ作オペラ『鼻』のアニメーション制作、演出、舞台美術
第26回「京都賞」思想・芸術部門受賞
  2013 フランス芸術文化勲章コマンドゥール
  2015 パラソフィア京都国際現代芸術祭2015、『セカンドハンド・リーディング』他を出展
  2018 東京新国立劇場で『魔笛』演出
テート・モダンで『ザ・ヘッド・アンド・ザ・ロード』初演