第31回
2019年
彫刻部門
Mona Hatoum
モナ・ハトゥム
現代美術に刺激を与え続けている英国の芸術家。1952年、パレスチナ人の両親のもと、レバノンの首都ベイルートで生まれた。1975年、英国旅行中にレバノンで内戦が勃発し、帰国できなくなった。ロンドンの美術大学に入学後、作品制作を開始。パフォーマンス・アートやビデオ作品を通じ、疎外された人間の苦しみや政治的抑圧など社会的矛盾を表現した。その後、インスタレーションなどへと表現手法を移行。ありふれた家具や家庭用品を使った作品も多いが、そこから受ける印象は不安感や恐怖で、心に深い爪痕を残す。その一方で、ユーモアをも含む。作品は世界各地の現代美術展で次々と取り上げられ、2016年、テート・モダンで回顧展が開かれた。2017年にはヒロシマ賞を受賞、広島市現代美術館での記念展で焼け焦げた家具の作品を出展した。現在はロンドンを拠点に、制作に打ち込む日々を送る。
略歴
現代美術に刺激を与え続けている英国の芸術家。1952年、パレスチナ人の両親のもと、レバノンの首都ベイルートで生まれた。フランス式の教育を受け、近年はロンドンとベルリンで創作活動を行うなど、多様なアイデンティティーを持つ。
「私のルーツは中近東にあります。そのことで私は少し違った価値観を持っています。極めて多岐にわたる、異質な文化を経験しているのです」
1975年、英国旅行中にレバノンで内戦が勃発。家族と離ればなれのまま帰国できなくなり、自らの意志とは関係なく突然、「亡命者」になった。ロンドンの美術大学に入学し、作品制作を開始。パフォーマンス・アートやビデオ作品を通じ、疎外された人間の苦しみや政治的抑圧、ジェンダーの問題といった社会的矛盾を表現した。
その後、オブジェや空間全体を変えるインスタレーションへと表現手法を移行。ロンドンの監視カメラ問題への関心から生まれた《見知らぬ身体》は、体内に内視鏡を入れ、自身の内部を円筒形の空間の床に映し出した作品。自分の体を“素材”として使い、観客の関心を集めた。ごく普通の家具やありふれた家庭用品を使った作品も多いが、そこから受ける印象は不安感や恐怖で、心に深い爪痕を残す。その一方で、ユーモアをも含む。
「私は『気味の悪いもの』に興味を抱いています。完全にノーマルであった状況が、些細なことが原因で急に不思議なものに変わることがあります。些細な出来事がトラウマに満ちた連想を呼び、心配・不安・恐怖の感情が生まれるのです」
このほか、無数のガラス玉を床に敷き詰めて世界地図とした《地図》など、扱うテーマや素材は幅広い。作品は世界的な現代美術展で次々と取り上げられ、最も注目される作家の一人となった。2011年、ジョアン・ミロ賞受賞。2016年、ロンドンのテート・モダンで回顧展が開かれた。
2017年にはヒロシマ賞を受賞。原子爆弾の被爆地である広島訪問に触発された作品《その日の名残》は、金網で覆った木製の家具を燃やし、黒焦げの残骸にしたもの。紛争や災害、環境破壊によって、日常がある日、突然失われる悲劇が誰の身にも起こり得ることを示すとともに、芸術的完成度の高い作品になっている。
現在はロンドンを拠点に、「仕事、仕事、仕事」の日々を送る。最近、ベイルートの家族、友人と再び連絡を取るようになった。「ベイルートは依然、活気に満ちた面白い都市です。夫婦で年に一、二回訪れることで元気をもらっています」と言う。
略歴 年表
ヴェネツィア・ビエンナーレ
テート・ブリテンで個展、ロンドン
ドクメンタ14
ベイルート・アメリカン大学名誉博士号
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ロンドンのアトリエにて
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ロンドンのアトリエにて
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ロンドンのアトリエにて
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ロンドンのアトリエにて
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ロンドンのアトリエにて
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《その日の名残》2017年