第4回
1992年
建築部門
Frank Gehry
フランク・ゲーリー
現代アメリカを代表する最もセンセーショナルな建築家の一人。スペイン、ビルバオの「グッゲンハイム美術館」(1997)は、地面から湧き出るように立ち現われ、渦巻くような躍動感のある造形を見せている。
1929年、カナダ・トロントに生まれ、南カリフォルニア大学、ハーバード大学に学んだ。62年以来、ロサンゼルスを活動の本拠に定め、直感的で彫刻的とさえいわれる建築に対するアプローチを育ぐくんできた。
建築界に鮮烈にデビューしたのは「ゲーリー自邸」(1979)。ローコストの工業用材を用い、完結した形態を排除したこの建物は、80年代後半に現われるディコンストラクティヴィズム(脱構築主義)のさきがけとなった。
「カリフォルニア航空宇宙博物館」(1984)、バーゼル近郊の「ヴィトラ家具博物館」(1989)、サンタモニカの「TBWA\シャイアット\デイ事務所」(1992)、ミネソタ大学の「ワイスマン美術館」(1993)など、その造形はつねに自由奔放、遊び心やユーモアに満ち、現代社会のエネルギーを紡ぎ出している。
略歴
即興的ともいえる表現で現代社会のエネルギーを紡ぎ出すフランク・O・ゲーリーの建築は、しゃれや奇抜なアイディアに満ちあふれている。
波型トタン板を素材に用いたり、巨大な魚や飛行機、双眼鏡を建物に取り付けたりして、何が飛び出すかわからない。実に自由奔放である。
彼が建築界に鮮烈にデビューしたのは『ゲーリー自邸』(1979)だった。既存の建物に増築を重ねたこの住宅は、波形トタン板や金網などローコストの材料を用いて、空間のゆがみをつくり、完結した形態を排除した。この破壊的イメージの、既成概念を打ち破る建築は、当時の建築界に衝撃を与えた。「この建物の依頼人は妻と私。だから自由につくれた」という『ゲーリー自邸』は、散逸的構造で1980年代後半に現れるディコンストラクティヴィズム(脱構築主義)のさきがけとなったのである。また同じ時期に設計した『サンタモニカ・プレイス』での金網の大胆な使い方は、現在普遍的にみられるパンチング・メタルの元祖ともいえる。
ゲーリーは「リスクを背負っても新しいものに挑戦する精神が大切。仕事で重要なのはパッション」と言い、斬新で明快、遊び心とユーモアのある作品を次々と発表し、建築界に新風を吹き込んできた。
『カリフォルニア航空宇宙博物館』(1984)の正面には戦闘機の模型が取り付けられ、遊び心と同時に「戦争の悲惨さを風化させないため」という願いが込められた。
サンタモニカの『TBWA\シャイアット\デイ事務所』(1992)は彫刻家、クレス・オルデンバーグの協力を得て、彼がデザインした大きな双眼鏡を建物の一部とした。同じくサンタモニカのレストラン『レベッカ』では、天井からワニやタコの模型が吊り下げられ、にぎやかで楽しい演出が施されている。
1929年、カナダのトロントに生まれたゲーリーは、南カリフォルニア大学で建築、ハーバード大学で都市計画を学び、1962年、ロサンゼルスに建築事務所を構え、以来、話題作を発表し続けてきた。
スイスのバーゼル近郊にある『ヴィトラ家具博物館』(1989)は、ゲーリー最初のヨーロッパでの作品である。家具会社の所有する椅子のコレクションを展示するというユニークな博物館。白い抽象彫刻のような建物は、白い断片が、あるものはうねった曲線をもち、あるいはとがった角を突き出す。即興的とも思える軽快な表現はリズミカルでダイナミックな造形を生み出し、建物自体がアートと化している。
最近の作品には、スペイン、ビルバオの『グッゲンハイム美術館』(1997)がある。フランク・ロイド・ライトの名作であるニューヨークのグッゲンハイム美術館と姉妹館のこの建物は、港湾工業地区にある敷地に、地面から湧き出るように立ち現れ、渦巻くような躍動感のある造形である。シルバーに輝くチタニウムの外壁は凹凸があり、魚の鱗のようにもみえる。内部も外部のうねった形態をそのまま現したギャラリーと矩形の空間があり、アトリウムには天窓から光が降り注いで開放的だ。『ヴィトラ家具博物館』やミネソタ大学の『ワイスマン美術館』(1993)をさらに発展させたリズミカルで有機的な形態となっている。
「広重、北斎の版画、京都の寺院など、私の建築家としてのベースで最も影響を受けたのが日本の芸術。建築と人生について考えるとき、よく広重の画集にあるコイの絵を眺める」というゲーリーの作品は日本でも見ることができる。神戸にある『フィッシュ・ダンス』(1986)である。メリケンパークに接して建つこのレストランでひときわ人目を引きつけるのが巨大な魚。これはコイだという。金網を張り合わせたコイの内部は何もなく、純粋なオブジェである。その隣の矩形をずらして重ねた茶色い造形物と組み合わせたレストランとなっている。
彼の作品にしばしば出てくるコイの造形は、子供のころ、安息日の食卓用として生きたコイがバスタブで泳いでいるのを見たことに起因するという。
ふとした思いつきや脳裏に刻まれた記憶などをかたちに表したゲーリーの建築は、見る楽しさを教えてくれる。また、彼がデザインした軽くフレキシビリティに富んだ木製のイスなども高く評価されている。1989年、第12回プリツカー賞を奈良の東大寺の会場において受賞。1999年にロサンゼルスで着工され、2002年完成予定という『ウォルト・ディズニー・コンサートホール』はデザインとともにその機能も、次世代のコンサートホールとして期待されている。近年ますます脂がのってきている建築家である。
渋沢和彦
略歴 年表
ウォルフ賞受賞
主な作品
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レストラン「フィッシュ・ダンス」(神戸市)
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TBWA\シャイアット\デイ事務所
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グッゲンハイム美術館
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オフィスにて(1992)