第29回
2017年
彫刻部門
El Anatsui
エル・アナツイ
アフリカの伝統的イメージを大胆な手法で発信する彫刻家。金属のボトルキャップを銅線で編み上げた、ガーナの伝統的な織物を思わせるメタル・ワークで、消費文化が生む余剰廃棄物の再生利用も探求してきた。1975年からナイジェリアに拠点を移す。1980年以降、数々の展覧会に出品し、欧米を中心に高く評価される。廃材とは思えない、新たな姿に再生されたメタル・ワークは見る人を圧倒する。顧みられることのない素材を使うことで、意義を高め、尊厳の場を与えるとともに、深淵なメッセージも込めている。「アートとは環境から生まれるもので、誰かが“新しく作る”ものではない」が持論。2010−11年、国立民族学博物館、神奈川県立近代美術館などで日本初の大規模回顧展。2015年、ヴェネツィア・ビエンナーレで「栄誉金獅子賞」を受賞。ガーナから世界文化賞の初受賞。
略歴
眼鏡の奥から柔和な目がのぞく。ナイジェリアを拠点に活動するガーナ出身の彫刻家は、「芸術とは環境から生まれるもの。絵の具を買うお金がなくても代わりになる物を利用すればいい」と静かに語る。
金属のボトルキャップを銅線で編み上げた、ガーナの伝統的な織物アジンクラを思わせるメタル・ワークは、イタリアのヴェネツィア・ビエンナーレ(2007年)で圧倒的な存在感を示した。消費文化が生む余剰廃棄物の再生利用も探求する。
ガーナの大学で彫刻を学び、1975年からナイジェリアに拠点を移す。1980年以降、数々の展覧会に出品し、欧米を中心に高く評価されるように。初期(1970−80年代)は、アジンクラやナイジェリアの伝統的装飾文様ウリなどに影響を受けた木彫やパネル、セラミックのオブジェなどを制作。木をチェーンソーで削り、炎で焼き焦がすなど大胆で繊細な作風だった。
日本でも展示された木彫の『あてどなき宿命の旅路』(1995)は、使い古しの臼と木切れで女性と子供の薪運びを表現した。アフリカの日常生活に触発された作品といわれているが、そうではないという。
「もっと普遍的な状況を表現しました。倒れている人には脚があり、立つ人は頭の荷で苦しむ。飢えた人に食べるものがなく、食に困らない人は食べたがらないという世の中の不条理を」
2000年以降、金属製の織物のような作品に変わる。廃材のボトルキャップを一つ一つ銅線で繋いで作る巨大なメタル・ワークは、廃材とは思えない、新たな姿に再生された。「一つのフォルムに固定するのではなく、複数のフォルムに変化させたかったのです」。彫刻に“多様性”を求めた。
アシスタント(20−40人)と共に作るこの作品は、大変な労力と努力、時間を費やす。一日かけても一平方フィートがやっとだという。
使い捨てられたボトルキャップを取り上げることで、意義を高め、尊厳の場を与えた。「これらは歴史や時代の残滓」。作品を通して奴隷貿易、植民地主義とその歴史が語りかける。
自身の作品を「アフリカ芸術」と定義づけられることに抵抗があるという。
「私は“一人”のアーティストです。アフリカ・サッカーとは言いませんね。サッカーはサッカー。日本芸術、アフリカ芸術…などと言いますが、やはり芸術は芸術です。地域の定義は必要ありません」
2015年、生涯にわたる功績を讃えるヴェネツィア・ビエンナーレ「栄誉金獅子賞」を受賞。ガーナから世界文化賞の初受賞となる。
略歴 年表
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カナリア諸島のテネリフェにて
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≪アディンクラ・ササ≫
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≪地と天の間≫
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≪Bukpa Old Town≫
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カナリア諸島地球環境映画祭表彰式
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カナリア諸島のテネリフェにて