奨励対象一覧

ルーラル・スタジオ(アメリカ)

  • 選考担当: ヒラリー・ロダム・クリントン国際顧問(アメリカ)

 ルーラル・スタジオは、米国アラバマ州東部のオーバーン大学が建築学部のプログラムとして、州西部ニューバーン(人口180人弱)で運営する設計施工建築事務所である。
 サミュエル・モックビー教授とデニス・ルース教授が1993年に創設した。安全で堅固な建物を安価で提供することを目的に、「ブラックベルト」と呼ばれる貧困地域で、これまでに計1,200人以上の学生に建築という職業の社会的責任を教えながら、地域の居住空間、生活環境の改善を実現してきた。
 「学生を教室から解き放って、普通の人々と触れ合わせる。学生のエネルギーを使い、地域で困っている人たちを助けることができるかもしれないと考え、創設された。当時の建築教育、建築という職業に対する批判でもあった」と、20年前から指導しているアンドリュー・フリーアー所長(オーバーン大学教授)は話す。

 プログラムの特徴は、設計だけでなく、学生が実際に建築作業に携わることにあり、それが特別な学習体験となる。小さな公園や教会に始まり、消防署、図書館などの公共事業へと、環境に配慮した持続可能な220のプロジェクトに取り組み、地域住民との間で信頼を築いてきた。「地元の人々が積極的に声を上げられるように努めてきた。小さなプログラムが成功したのは、誰もやらないようなプロジェクトに取り組んできたからだ」(フリーアー所長)。
 住宅プロジェクトでは、2万ドルで建設するという「20Kプロジェクト」を20年間続けている。手頃な価格の試作品を作ろうというアイデアに始まり、個性的な家よりも手頃な価格の家を設計する義務があると思い至った。現在は2万ドルで建てることは難しくとも、「手頃な価格で、美しく、耐久性があり、経済的で、住みやすい家」を提供するという、理想の住宅倫理観を打ち出している。
 近年は、「住宅という土台の上に、他にどのような手伝いができるか」という発想で、食料、排水、教育、インターネットなど、社会の基本に対する不安に目を向け、野菜の自給自足や排水の浄化プログラム、住宅の管理費用を予測することで光熱費のむだを省くというプロジェクトにも取り組んでいる。
 こうした活動は世界的に評価され、フリーアー所長は2023年4月、トーマス・ジェファーソン・メダル(建築)を受賞した。

ハーレム芸術学校(アメリカ)

  • 選考担当: ヒラリー・ロダム・クリントン国際顧問(アメリカ)

 ハーレム芸術学校は、米国ニューヨークのハーレム中心部で毎年1,600人の生徒を指導している文化芸術センターである。
 1964年にソプラノ歌手のドロシー・メイナーによって創立された。教会の地下で生徒にピアノを教えたのが始まりで、徐々に生徒が増え、その後、資金を募って、1970年代に約3,400㎡の施設が建設された。
 生徒は2歳から18歳が対象で、入学は自由。オーディションが必要な場合も芸術への関心を確認する程度で難しいものではない。生徒の80%がアフリカ系とラテン系の米国人。75%が経済的支援を受けている。年間予算は550万ドルで、その7割を寄付金で賄っている。トランペット奏者のハーブ・アルパートも2010年以来、計1,750万ドルを支援している。

 「メイナーは、地に足を着けて若い人たちに創造性と芸術を探求する場所を確保したいと考え、あらゆる分野を一つ屋根の下に集めて、ハーレムの若者たちが安心して創造性を発揮できる安全な空間を提供した。芸術は人間性の最大の表現。皆を一つにし、皆が自由であることを教えている」とジェームズ・ホートン校長は語る。
 生徒は学際的なトレーニングを通じて、音楽、ダンス、演劇、ビジュアルアート、デジタル・イラストレーション、マルチメディアなどを学ぶ。指導には、プロの音楽家や、世界中の舞台で活躍したダンサー、著名なコミック・ブック・アーティストらが当たり、ソフトウエアは将来の就職に備えて業界標準を採用している。
 「夢はブロードウェイ出演」という、ミュージカル演劇を学ぶ11歳の女子生徒は「ダンスのクラスも受講し、仲間との絆を楽しんでいる。指導したことがすぐにできなくても、先生は諦めることはない」と信頼している。
 2024年には創立60周年を迎えるが、さらに「足跡」の拡大を目指し、プログラムの開発を続けていく。矯正施設や刑務所に収容されている若者、ホームレスを含めた街のすべての人に質の高いプログラムを提供することや、オンラインでのオンデマンドプログラムの整備を検討している。若いアーティストの養成だけでなく、幅広く育成について考え、創造性を引き出す機会を提供することは、「創立者のビジョンを完全に実現する神髄」とホートン校長は語る。

クロンベルク・アカデミー財団(ドイツ)

  • 選考担当: クラウス=ディーター・レーマン国際顧問(ドイツ)
クロンベルク・アカデミー財団(ドイツ) Kronberg Academy
© Patricia Truchsess von Wetzhausen

 クロンベルク・アカデミー財団は、新進気鋭の演奏家を育成するドイツ・フランクフルト近郊の文化財団である。
 20世紀最大のチェリスト、パブロ・カザルスの没後20周年に当たる1993年、チェリストのライムント・トレンクラー(現財団会長)が、カザルスの未亡人、マルタ・カザルス・イストミンやチェリストのムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(1993年音楽部門)と共に創立し、2004年に財団法人となった。
 「音楽は、すべての人に理解される世界言語であり、世界中の音楽仲間は芸術の純粋さを人類のために役立てよう」というカザルスの遺志を継ぐために、静かで落ち着いた環境のクロンベルクを本拠地に選んだという。トレンクラー会長は「音楽の遺産を世代から世代へと受け継いでいける場所、深く考えることができる空間です」と言う。

 現在は、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ピアノの4分野で、ソリストとして国際的キャリアを築く可能性のある若手演奏家(年間約35人)を対象に3-4年間、高度な訓練を行う。毎年、平均5-6人の学生を受け入れている。
 ギドン・クレーメル(2016年音楽部門)、アンドラーシュ・シフ、ダニエル・バレンボイム(2007年音楽部門)など世界的な音楽家が特別講師を務める。20年前から財団芸術顧問のクレーメルは「私の経験、感覚、知識を若い人たちと共有するのが目的。彼ら自身で解決策を見出せるようにしたい」と語る。
 千葉出身のヴァイオリニストで、2021年ミュンヘン国際音楽コンクール1位の岡本誠司は、2019年から学んでいるが、「世界中の伝説的な音楽家によるレッスンは、とても楽しい」。卒業生は、チェリストの宮田大を含む64人を数える。
 コンサート、公開マスタークラス、公開リハーサルも定期的に開催され、学生たちは世界的な音楽家と同じステージで演奏することによって、自分の能力を伸ばしながら、音楽に対する理解を深めていくことができる。
 2022年9月23日には、一流の音響と最新の設備を備えたコンサートホール「カザルス・フォーラム」(550人収容)がオープン。同財団はここを拠点にクラシック音楽界でさらに指導的役割を担っていきたいという。
 2020年6月に予定されていた初の日本ツアーは、コロナ禍のために中止になったが、2023年6月に日本で演奏する予定。

中央修復研究所付属高等養成所(イタリア)

  • 選考担当: ランベルト・ディーニ国際顧問(イタリア)
中央修復研究所付属高等養成所(イタリア) ©️ archivio Paola Ghirotti

 第二次世界大戦が勃発した直後の1939年、戦火にさらされたイタリアの文化・芸術遺産の保存と修復を目的に中央修復研究所(ICR)が設立された。1941年から修復のプロを養成するコースが本格的にスタートし、高等養成所(SAF)へと発展した。
 現在は、ローマと南イタリア・マテーラ(2015年開校)の2校に計110人が在籍している。毎年、18歳以上の25人が入学するが、高校卒業もしくは同等の資格が必要。外国人はイタリア語を使いこなせることが条件で、全体の15%を占める。
  5年間の修士課程では、修復対象物を構成する素材を理解するために、無機化学、有機化学、生物学、物理学なども勉強する。化学教師のマルチェッラ・イオエレ氏は「ICRの素晴らしい点は、修復士、歴史家、化学者、物理学者、生物学者、動物学者、人類学者がチームとして一緒に働くこと」と語る。

  ICRのアレッサンドラ・マリノ所長は、「修復士は、作品がその時代や現在の歴史的・文化的背景にどのように適合しているかを理解しなければならないし、素材面でも優れた認識を持つ必要がある。正確な作業を可能にする手作業の能力と専門知識が求められる」と、修復士に必要な資質を説明する。
 SAFのフランチェスカ・カパンナ所長によると、学生たちは、ICRの研究室や、国や教会、個人や財団の敷地内の工事現場などでの作業を通じて理論と実践を学ぶ。各種の現場実習がコース全体の60%を占めるという。他国での国際協力プロジェクトにも積極的に参加し、ヨルダンのウマイヤード宮殿の壁画修復や、最近ではギリシャの水没したローマ時代の別荘を修復・復元する水中作業も行った。
 開校以来約900人が卒業し、イタリア内外の文化・芸術遺産の保存修復に携わってきたほか、ルーヴル美術館など欧米の美術館でも修復士として活躍。30年ほど前には日本人2人も卒業し、現在はそれぞれ画家になっているという。
 同校は文化省の管轄下にあり、年間運営費(35万ユーロ)のほとんどを同省が出資。また、マテーラ校は地元の州からも資金援助を受けている。学生たちも、イタリアの公立大学の学生と同等の額(一人年間最大2700ユーロ)を負担。今回の奨励金は、「今後2年間の学生による共同研究プロジェクト30件の助成に使う」(カパンナSAF所長)という。

デモス(フィルハーモニー・ド・パリ)= フランス

  • 選考担当: ジャン=ピエール・ラファラン国際顧問(フランス)

 デモスは、パリ管弦楽団の本拠地、フィルハーモニー・ド・パリ(ローラン・ベイル館長)が運営する音楽教育プログラム。2010年に発足してから、クラシック音楽に触れる機会の少ないフランスの貧困地域や地方の7歳から12歳の子供を対象に、無料で楽器を貸し出し、週4時間のレッスンを3年間行う。15人構成のグループが7つあり、その105人がオーケストラを形成し、6月末にコンサートを開催する。
 1グループごとに2人のプロの音楽家、2人のソーシャルワーカーとボランティアが組みになって指導する。音楽の技術面の指導だけではなく、子供の精神面のケアや人格育成にも力を注ぐためだ。
  もともとは、ベネズエラの貧困地域の子供たちをクラシック音楽の練習、演奏を通じて教育する制度、エル・システマ(1975年発足)の活動にヒントを得た。エル・システマは2006年に若手芸術家奨励制度の対象団体に選ばれている。

  ベイル館長は「恵まれない地域に住む子供たちとの絆の重要性、ベネズエラの実験が示した教育界全般への好影響などを考えて結成した。私たちは楽器を弾く子供たちと先生の間に交わされる音楽の伝達の仕方に重きを置いている」と語る。
  2015年以降はデモスの活動をフランス全土に拡大し、現在4000人近くが参加、全国に38のオーケストラを組織している。さらに、2022年にオーケストラの数を60に倍増することも計画している。
 元人気サッカー選手で、フランス代表の歴代最多出場記録を持つリリアン・テュラム氏がデモスの後援会長を務めていることも、子供たちや父母の関心を高めている。デモスの理念に着想を得て、フィルハーモニー・ド・パリの協力のもと、デモスの一部生徒もエキストラで出演した映画『メロディ』(邦題『オーケストラ・クラス』)も2017年に公開され、デモス人気を後押しした。
  デモスで3年間を過ごした50%の子供が音楽の勉強を続けており、そうした子供達には引き続き楽器を無料で貸し出す。年間運営費800万ユーロ(10億円)の3分の1は政府、3分の1は民間、そして残りの3分の1は地方自治体からの資金で賄っている。

シェイクスピア・スクールズ財団(イギリス)

  • 選考担当: クリストファー・パッテン国際顧問(イギリス)
シェイクスピア・スクールズ財団 提供:シェイクスピア・スクールズ財団

 世界最大の若手演劇祭「シェイクスピア・スクールズ・フェスティヴァル」を2000年から主催しているイギリスの文化教育団体。シェイクスピアの言葉と物語を通じて、若者に自信と自尊心を持たせ、成長を手助けする。
 毎年秋に開催される演劇祭には、少数民族の生徒や貧困地域を含む小学校、中学校、特殊学校など、イギリス全土の1000校から約3万人の若者(7−18歳)が参加。事前に各学校でワークショップを開き、教師の訓練を行うので、教師も演劇や英語の専門家である必要はない。
 演劇祭は2カ月開かれ、一晩に3校か4校が、130カ所以上の劇場の舞台で『マクベス』、『ロミオとジュリエット』、『テンペスト』など簡易版のシェイクスピア劇を上演する。計6万5千人以上が観劇し、多くの場合、観客にとってもシェイクスピア作品に触れる最初の機会になっているという。

 財団代表のルース・ブロックさんは「シェイクスピアの卓越した物語、美しい言葉は400年も生き続けてきました。シェイクスピアは人間の有り様について重要な事柄を扱っており、若者たちは愛情、争い、戦争、憎しみに関する問題を理解することができます。シェイクスピアが若者にとって今日的な意義を持つ理由です」と語る。
 昨年の演劇祭に参加したロンドンの生徒は、「シェイクスピアの言葉によって、さまざまな国籍、年齢、能力を持つ人たちが団結できることを意識するようになりました」と振り返る。
 演劇祭には、この17年間に計25万人の若者と教師が参加した。2016年には、シェイクスピア没後400年記念としてウェストミンスター寺院などでも上演している。
 演劇界からトム・ストッパード(2009年世界文化賞受賞者)、ジュディ・デンチ(2011年世界文化賞受賞者)も活動を支援している。ストッパードは演劇祭のために『ヴェニスの商人』を脚色してくれたという。
 2016年から財団組織となり、財団理事長のアンドルー・ジャクソンさんによると、財団の資金源は、演劇祭に参加する学校の登録料が半分を占め、25%を興行収入とプログラム、Tシャツなどの販売収入、残りの25%を寄付で賄っている。ジャクソンさんは「シェイクスピアのテーマは時代、国籍を超えた普遍的なもので、末永く生き続けていくでしょう」と、シェイクスピア劇を通じた財団活動に自信を深めている。

ズゥカック劇団・文化協会(レバノン)

  • 選考担当: ウィリアム・ルアーズ国際顧問 (アメリカ)

 イスラエル軍のレバノン侵攻があった2006年、若手女優のマヤ・ズビブさん(36歳)らが、学校に避難した子供や女性に対し演劇療法を用いて社会心理的な支援活動を始めたのをきっかけに、ベイルートで設立した。
 その後、演劇療法の手法を芸術として発展させるため、地元のアーティストが自由に利用できる交流の場、リハーサルや創造の場として、2008年にスタジオをオープン。このスタジオで演劇、ダンス、教育などに関するワークショップを開催したり、若手アーティストの指導を行ったり、海外から招聘したアーティストの創造スペースとしても利用している。
 レバノン国内には200万人の難民がいるといわれるが、「演劇を通して個人に力を与え、自分自身を表現し、集団への関わりを持たせる」(ズビブさん)ことを目的に、パレスチナ人難民、シリア人難民、スーダン人難民、イラク人難民、さらには家庭内暴力の被害者などを対象に社会心理的な支援活動を続けている。

 こうした活動以外に、劇団として独自の新作劇にも取り組み、例えば、レバノンには学校で教える現代史の教科書がないため、「レバノンの歴史」を扱った演劇をレバノン各地で上演。上演後は舞台を観客にも開放し、それぞれの立場で歴史を話し合う対話集会にしている。
 今年4月には、スイスのドロソス財団から受けた4年連続の資金援助を基に、劇団本部を広いビルに移した。これによってスタジオ、リハーサル室を拡充し、11月には100人収容の付属劇場も開設する。将来はこの劇場収入も活動資金に充てる計画。
 ズビブさんは「劇団は新局面を迎えた。若者に演劇作品を作るための手段や社会心理的な支援技術を教えるとともに、若い観客を増やしていきたい」と意気込んでいる。
 現在、ズビブさんら30歳代のアーティスト7人を中心に、管理、渉外の担当、舞台美術、デザインなどの担当を含め全体で25人が所属している。
 レバノン政府からは芸術に対する助成がないため、年間の運営費は全て外部からの資金援助で賄う。援助額は年によって異なるが、8万−20万ドル(880万−2200万円)という。ブリティッシュ・カウンシル(英)、ゲーテ・インスティトゥート(独)、アンスティチュ・フランセ(仏)からも援助を受けている。

ファイブ・アーツ・センター(マレーシア)

  • 選考担当: 中曽根康弘国際顧問 (日本)

 多様な民族と文化・言語(マレー語、英語、中国語)が共存するマレーシアで、1984年に、東南アジアを代表する演出家だったクリシェン・ジット氏 (2005年没)が、同じく演出家のチン・サン・スーイ氏、パートナーでダンサー・振付家・教育者のマリオン・ドゥ・クルーズさん(当時30歳)と共にク アラルンプールで結成したアーティスト集団。創設メンバーのドゥ・クルーズさんは「マレーシアの物語を実験的な方法で伝える機会と場を提供するのが目的 だった」と振り返る。
 その狙い通り、過去30年間、演劇、ダンス、音楽、児童劇、ビジュアル・アーツの5分野を中心に、同センターが軸となっ て、実験的な芝居やダンス公演、展示会やインスタレーション、現代ガムラン音楽の演奏会、子供向けや演出家のためのトレーニング・プログラムなど、多彩で 広範囲な芸術活動を展開しながら、地域社会を刺激し、若手アーティストを支援してきた。

 現在、同センターには、世代、分野が異なる13人(60歳代4人、50歳代4人、40歳代2人、30歳代3人)のメンバーが所属。メンバーは世代間の“衝突”を繰り返しながら、各自が独自の芸術活動を行っているが、最近は30代、40代のメンバーが活動の中心となっている。
 10年前にメンバーとなったプロデューサーのジューン・タンさん(42歳)は、新進アーティストのプログラムを担当。「センターは、新しい芸術形態を試してみたい人の発表の場となる。多様性が強みで、マレーシア社会全体を映し出したい」と語る。
 著名な演出家、マーク・テ氏(35歳)は最年少メンバーだが、「今後は若手アーティスト、若手プロデューサー、若手ライター、若手思想家に対して、ダンス、演劇、映画、新メディアなど、あらゆるアートの分野で基盤を提供したい。同時に、代々受け継いできた古い歴史や伝統的なものについても携わっていきたい」と意気込む。
 同センターの年間予算30万リンギット(約770万円)は政府の助成金と民間企業の資金援助で賄う。20年前から日本人アーティストとのコラボレーションも実施、日本の国際交流基金も活動を支援している。近年はマーク・テ氏の演劇などをアジア、欧州各国で公演。2006年にはマレーシアの衛星テレビ放送局と提携し、「クリシェン・ジット・アストロ基金」を設立、マレーシア在住のアーティストのみならず、マレーシアの文化発展に貢献する人に対しても経済的支援を行っている。

ヤンゴン映画学校(ミャンマー、本部=ドイツ・ベルリン)

  • 選考担当: クラウス=ディーター・レーマン国際顧問 (ドイツ)

  イギリス生まれの英国系ビルマ人映画製作者、リンジー・メリソンさんが2005年、自身が住むベルリンに「ヤンゴン映画学校」(YFS)を設立した。英国系ビルマ人の母親が、生まれ故郷ミャンマーに帰る旅に同行してドキュメンタリー映画を製作したのが縁で、ヤンゴンでドキュメンタリーのワークショップを開催したのが、学校開設のきっかけとなった。

  ヤンゴン市内に活動拠点の校舎を構え、そこへ欧米諸国から経験豊富な映画製作者を定期的に派遣。ドキュメンタリー映画を中心に監督、撮影技術、シナリオ、ポストプロダクション(撮影後作業)などの分野を無料指導し、これまでに約160人が受講した。メリソン校長は年4回ほど、ベルリンからヤンゴンの校舎に出かける。

  学生、卒業生が製作したドキュメンタリー映画の中には、国際的な映画祭で賞を受けた作品も多数あるが、2010年までの軍事独裁政権下での監視の目は厳しかったという。2008年のサイクロンで13万人以上が命を失った時、YFSの学生と卒業生が直ちにデルタ地域に入って被害状況と被災者の声を収録し、ドキュメンタリー映画『ナルギス − 時間が止まった時』を製作した。しかし、国内での上映は禁止された。

  「当時、撮影は違法でした。政府は被災者に迅速な援助をすることができず、災害を隠そうとしたのです。私たちはサイクロンの爪痕を撮影して、非常に心を打つ映画を作りました。最も誇らしい映画です」とメリソン校長。海外で多くの賞を獲得し、2012年に初めて国内の映画祭でも上映された。

  YFS一期生で、後輩に撮影技術を教えるティン・ウィン・ナインさん(40歳)は『ナルギス』のカメラを担当したことなどで、軍事政権からにらまれ、2009年から3年間、国境近くのタイ北部に逃げていた。その体験を基に現在、新作ドキュメンタリーを監督・製作中だ。他の卒業生も「ドキュメンタリーを通じてミャンマーの実情を内外に知らせるのが私たちの役割」と語る。

  学校運営の年間予算60万ユーロ(8100万円)は、主に欧州連合(EU)、ゲーテ・インスティトゥート、フィンランド・メディア通信財団などからの寄付で賄っている。若手芸術家奨励制度の奨励金は、ドキュメンタリー長編映画の製作費用に充てるという。

  ゲーテ・インスティトゥートの支援でビルマ時代の映画のデジタル復刻版も担当。卒業生がプロダクション会社「ヤンゴン映画サービス」を設立し、国際的な非政府組織などのドキュメンタリー製作も請け負う。YFS本部をベルリンからヤンゴンに移すのが今後の課題だという。

  ミャンマーでは2011年からの民政移管後、メディアの自由化・民主化はある程度進んではいるが、メリソン校長は「政府は、この機会にYFSがミャンマーの創造的メディア産業を担うパートナーになり得ると考えてほしい」と語っている。

ジンスー財団(ベナン)

  • 選考担当: ジャン=ピエール・ラファラン国際顧問 (フランス)

  アフリカ西海岸、ベナン共和国の名門、ジンスー家の出身、マリー=セシル・ジンスーさんが2005年、21歳の時にベナン最大の都市、コトヌーに設立した 文化芸術の振興財団。現代アフリカ美術作品の展示、「美術教室」の開催、文化芸術を通じての教育促進など、その積極的な活動は、アフリカのみならず、欧州 からも注目されている。

  財団本部の展示室では、これまでに23回のアフリカ美術作品の展覧会を開催したが、昨年11月、コトヌーから西方30キロの"奴隷貿易"の町、ウィダに、 サハラ以南初の現代美術館を開館させた。90年前の古い2階建て邸宅を美術館に改修したもので、現代アフリカ美術作品90点を常設展示している。

  財団創立者で会長のジンスーさんが2年前、香川県の直島を訪問した際、空き家を改修して美術作品を展示する「家プロジェクト」にヒントを得たという。ジンスーさんは1000点の現代アフリカ美術作品を所蔵しており、"直島方式"でさらに美術館を増設する計画だ。

  文化芸術の教育プログラムとして、財団は毎日、カラフルな「文化バス」で本部の展覧会見学の生徒の送迎を行い、また、週2回「美術教室」を開いて絵画など の制作方法を指導。さらに、コトヌー市内6カ所に「ミニ図書館」(蔵書各2000冊)を開設し、週1回はそこで映画の上映会を開催。3年前から 「現代ダンス・フェスティバル」も主催している。

  こうした財団活動への参加費は全て無料。参加者は子供を中心に、これまでに延べ460万人を数えるという(ベナンの総人口1000万人)。財団職員は計 85人。財団の運営資金は年間100万ユーロ(約1億4000万円)で、当初はジンスー家から出ていたが、現在は国際企業50社から寄付も集まっている。

  著名なアフリカ人アーティストも財団の活動を支援している。ガソリン缶のマスク作品などで欧米でも人気のベナン人彫刻家、ロミュアルド・ハズメさん (52)は、財団発足時の第一回展覧会に作品を提供したが、来年の財団創立10周年記念イベントにも全面的に協力するという。

  テレビでおなじみのゾマホン駐日ベナン大使は、コトヌーの財団本部近くに「たけし日本語学校」を創設(2003年)している。ジンスーさんは「日本語学校 はベナンと日本との架け橋で、ゾマホンさんはベナン国より有名。財団にもよく激励に来てくれるし、今後も協力していきたい」と語る。ゾマホン大使も「ジンスー財団の活動を通じて、文化芸術面からベナンとアフリカを知ってもらえるのは素晴らしい」と話している。

聖チェチーリア国立アカデミー付属ユニ・オーケストラ(イタリア・ローマ)

  • 選考担当: ランベルト・ディーニ国際顧問 (イタリア)

430年の歴史を誇るローマの音楽大学、聖チェチーリア国立アカデミーのブルーノ・カーリ名誉総裁が、「音楽の未来は、新しい演奏者と新しい聴衆を育ててこそ創られる。幼少期から音楽教育を」と、2006年に創設した青少年オーケストラ。中心メンバーは12歳から19歳。恵まれない社会環境の少年少女の参加に力を入れ、奨学金も提供している。「子供達が子供達を助ける」という考えから、慈善活動にも熱心で、ローマの総合病院などの小児科病棟のためのコンサートを毎年、開催し、その収益を小児患者の治療に寄付している。「青少年による青少年のためのコンサート」で若い人へのクラシック普及も目指す。「ユニ・オーケストラ」には、4歳から6歳までと7歳から12歳までの2つの入門者コースがあり、メンバー総数は260人。児童合唱団コースと合わせると550人。若手指導のための年間予算は75万ユーロ(約9700万円)。

「ユニ・オーケストラ」は、430年の歴史を誇るローマの音楽教育機関、聖チェチーリア国立アカデミーのブルーノ・カーリ名誉総裁が、「音楽の未来は、新しい演奏者を育て、新しい聴衆を育ててこそ創られる。幼少期から音楽教育を」と、2006年に創設した。

イタリアの作曲家、ロッシーニの研究者として有名なカーリ名誉総裁は、「音楽一家だったロッシーニは6、7歳の時に家で指揮者、歌手の役を務めていた。多くの音楽家が幼少期から始めている」と語る。

「ユニ・オーケストラ」の中心メンバーは12歳から19歳。この他、入門者コースとして、4歳から6歳までと7歳から12歳までの2つのコースがあり、メンバー総数は260人、児童合唱団コースを合わせると550人を超えるという。

恵まれない社会環境の青少年の参加に力を入れ、彼らの楽器を購入し、奨学金も提供している。また、「子供たちが子供たちを助ける」という考えのもと、慈善活動にも熱心で、ローマの総合病院の小児科病棟のためのコンサートを毎年開催し、その収益を小児患者の治療に寄付している。

コンサート専門のオーケストラとしてはイタリアで最も古いといわれる聖チェチーリア国立アカデミー管弦楽団のメンバーが指導陣に加わり、活動を支援している。

「ユニ・オーケストラ」創設以来の指揮者、シモーネ・ジェヌイーニ氏によると、レパートリーはコレッリ、モーツァルト、ベートーヴェン、ビゼーからバーンスタイン、リゲティまで、三世紀をまたぐほど広範にカバーしているという。「指導する上で最も気をつけているのは、子供たちが聴くことを覚えること。聴くことが決定的な要素」と語る。

同アカデミーの本部は、イタリアの建築家、レンゾ・ピアノ(1995年世界文化賞受賞)設計による複合ホール「オーディトリウム・パルコ・デッラ・ムジカ」(2002年完成)内にあり、「ユニ・オーケストラ」もここのホールで練習を行う。

「ユニ・オーケストラ」を含む若手指導のための年間予算は75万ユーロ(9750万円)で、チケットの売り上げ、イベント出演料、宝くじ業者からの寄付で賄っている。今回の奨励金は、恵まれないメンバーの奨学金などに使うという。

スフィンクス・オーガニゼーション(本部:アメリカ・デトロイト)

  • 選考担当: ウィリアム・ルアーズ国際顧問 (アメリカ)

黒人・ラテン系アメリカ人のクラシック音楽への参加を促進し、若手演奏者を養成するため、黒人のヴァイオリニスト、アーロン・ドワーキン氏(42歳)が 1996年に創設した。オーケストラの中で黒人は一人だったというドワーキン氏自身の体験や、コンサートの聴衆にも黒人・ラテン系が少ないことから、「クラシッ ク音楽での文化の多様性」を目指している。

   毎年、弦楽器奏者のコンクールを開催し、優勝者はカーネギーホールで公演するほか、スフィンクス・シンフォニーのメンバーとして演奏するなど、黒人・ラテン系のプロ演奏者養成のための様々なプログラムを実施している。スフィンクス・シンフォニーのライブと放送を通じて年間200万人が演奏を聴くという。また、黒人人口が8割を占めるデトロイトの恵まれない地域の学校でのクラシック音楽の演奏と楽器指導も行っている。
創設以来15年、こうした地道な活動が実を結び、全米で注目される存在となった。スフィンクス出身者のクラシック音楽界への進出もめざましく、米国の主要オーケストラでわずか2パーセントだった黒人・ラテン系演奏者の比率が、現在は4パーセントに倍増した。創設者のドワーキン氏自身も「芸術教育の変革者」として脚光を浴び、オバマ大統領の「全国芸術政策委員会」のメンバーに指名された。
ヨーヨー・マ、故アイザック・スターンら著名音楽家の中にもスフィンクス支援者は多く、一緒に演奏し、指導している。スフィンクスではニューヨーク、シカゴ、ロンドンにも事務所を開設し、ベネズエラやロンドンの若手オーケストラの団体と協力関係を結ぶなど、国際的な活動も始めた。年間予算320万ドル(約2億5600万円)のうち6割を民間からの寄付で賄っている。
ドワーキン氏は「オーケストラの黒人・ラテン系演奏者が倍増したと言っても、まだ4パーセントにすぎず、道半ば。芸術的な優秀性を維持しながら、多様性を求め続けていきたい」と、さらなる活動拡大を目指している。

サウスバンク・シンフォニア

  • 選考担当: クリストファー・パッテン国際顧問

2002年に創設された、若手音楽家によるロンドンの交響楽団。毎年、32人の若手音楽家がさまざまな音楽学校からオーディションで選抜され、奨学金の補助のもと、フルタイムの楽団員として一年間の訓練を受ける。イギリスだけではなく、欧州各国やオーストラリア、ニュージーランド、日本を含むアジア各国など、海外からのメンバーが3割を占める。

  音楽監督のサイモン・オーヴァーは「仕事が十分になく、音楽の道を断念することになりかねない若手音楽家に、演奏の機会を与えると共に演奏家のネットワークを作り、多くの人々と出会う機会を与える場として出発した」と語る。
一年間のうちに初期バロック音楽から現代音楽まで、交響曲、室内楽からソロ作品までの多種多様な音楽を経験できるのが特徴。
メンバーは王立歌劇場、ナショナル・シアターなどで公演し、テレビ出演も多い。毎年、イタリアのアンギアリ音楽祭にも参加、著名な指揮者との共演も多い。卒業生のほとんどがプロのオーケストラなどで活躍している。
サウスバンクは、テムズ川にかかるウォータールー橋南端の一帯を指し、ナショナル・シアターなどがある文化地域で、同楽団の事務所も、その一角に立つセント・ジョン・ウォータールー教会の地下室にある。リハーサルも教会の礼拝堂で行い、また、毎週木曜日の夕方には、この礼拝堂で「ラッシュアワー・コンサート」と銘打って、誰でも気軽に立ち寄れる無料のコンサートを開催している。
スタッフは12人で、毎年必要な資金75万ポンド(約1億円)はすべて民間の寄付で賄っている。創立10周年の来年には、フランス、イタリア、アメリカ、オーストラリアなどへのコンサート・ツアーを予定している。

ロイヤル・コート劇場若手劇作家プログラム

  • 選考担当: クリストファー・パッテン国際顧問

18歳から25歳までの若手劇作家を養成するためのイギリスの名門劇場、ロイヤル・コート劇場のプログラム。「若手劇作家が作品を書くのを奨励するため、その作品を積極的に上演していく」という同劇場の方針を反映し、1991年からスタートした。
このプログラムには、3ヶ月ごと(3月、9月、12月の1日開始)に15人前後が参加。参加者は週一回、同劇場で開かれる講習会で、脚本を朗読したり、討論したり、それぞれが脚本を書いたりと、劇作家としての基礎を学ぶ。誰でも参加でき、費用は100ポンド(約13500円)。昨年夏には日本人も参加した。

 プログラム担当者のレオ・バトラー(1999年に参加)は「前半はなぜ書くのか自らに問いかけ、コース半ばで、全員が何らかの作品を仕上げる。手を入れる必要があるかもしれないが、少なくとも芝居と呼べるようなものを書かせる。後半には、グループごとに各作品を吟味していく」と語る。
2009年の演劇・映像部門の受賞者、トム・ストッパードなど有名劇作家、監督、デザイナー、振付師などを招き、話を聞く機会も設けている。
2010年に同劇場が公演した作品の半数はこのプログラムが生んだ若手劇作家のものであり、特にルーシー・プレブルの『エンロン』はウエスト・エンドに進出、ヒット作となった。
現在の同劇場は1878年にロンドンのスローン・スクエアにオープンしたが、創立以来、「劇作家のための劇場」として、若手劇作家の発掘と育成に力を注ぎ、新作を多く取り上げてきた。毎年、若手劇作家フェスティヴァルも開催、そこで上演する作品を募集しているが、今年はその対象年齢を8歳まで引き下げたという。
同劇場の文学マネジャー、クリストファー・キャンベルは「英国は他の国と比べ、劇場と劇作家の重要性が高く、文化的影響力が大きい。観劇が文化に根付いている。新しい世代の劇作家を見出し、その作品を上演することが基本的な役割」と強調している。

 

アジア ユース オーケストラ

  • 選考担当: 中曽根康弘国際顧問

アジア ユース オーケストラ (AYO) は、日本、中国などアジア各国で長年、音楽教育者や指揮者などを務めていた米国人、リチャード・パンチャスが1987年、ヴァイオリン奏者兼指揮者の故ユーディ・メニューインと共に、香港実業界の支援で香港に設立した。 音楽を志すアジアの青少年にオーケストラで演奏する機会を提供し、有名アーティストとの共演やツアーを経験することを通じて、優秀な才能が育まれ、成長していくことを目的としている。 

毎年、中国、台北、香港、インド、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムなどの17歳から27歳までの若者約1000名の中から、厳しいオーディションで100名を選出。3週間にわたる香港での夏期リハーサル合宿の後、国際的に活躍する著名な指揮者やソリストと3週間のコンサート・ツアーを行っている。
  1990年の初回公演以来、昨年までに世界76の都市で307回の公演を行った。1997年には香港と北京で行われた香港返還式で、タン・ドゥン作曲の「交響曲1997天・地・人」の世界初演をヨーヨー・マと演奏。このほか、ニューヨーク・リンカーンセンター、ホワイトハウス、国連本部や、アムステルダムのコンセルトヘボウやベルリンのコンツェルトハウスなどでも演奏している。   20周年に当たる今年は、8月7日から28日まで、創立者兼芸術監督のパンチャスと英国の指揮者ジェームズ・ジャッドが率いて、深圳、香港、ソウル、北京、天津と、日本の佐賀、別府、京都、東京で公演を行った。
  パンチャスは「一年ごとにメンバーの顔ぶれは変わるが、その熱気、情熱と意欲はいつも変わらない」と、20年間の成果を強調する。
  AYOの活動資金は、シンガポール、台北、香港、中国、マレーシア、タイ、フィリピン、日本の個人や企業からの支援を受けている。卒業生は、世界各国の交響楽団などで、指揮者、室内楽奏者、あるいはソリストとして多数、活躍している。

 

  

クレメラータ・バルティカ

  • 選考担当: オットー・グラーフ=ラムスドルフ国際顧問

 バルト海沿岸のバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)のラトビア・リガ生まれの世界的ヴァイオリン奏者、ギドン・クレーメルが1997年、 「50歳の誕生祝い」として、バルト三国の優秀な若手演奏家を集めて結成。クレーメル自身がソリストと芸術監督を務め、今や、最も卓越した欧州の室内管弦 楽団の一つと称されるまでに成長した。
クレーメルは、この楽団の活動を通じ、自らの幅広い音楽経験をバルト三国の若手演奏家に伝えるとともに、旧ソ連からの独立後に高まったバルト三国の音楽・文化に対する独自の機運、帰属意識を育て、促進していく狙いも込めている。

団員25人(平均年齢 28歳)は、バルト三国での厳しいオーディションを通じて選ばれる。半数が結成当初のメンバー。楽団の組織はラトビア文化省に所属し、楽団員にはサラーが支払われる。ラトビア文化省を中心にリトアニア、エストニアの各文化省も資金面で援助(年間総額37万5000ユーロ)している。
バルト諸国のほか、世界各地を巡る年5回のツアーで計60のコンサートを開催し、様々な音楽祭にも出演。2004、07、08年の来日公演に続いて、今年11月には新プログラムを携えて名古屋、東京、大阪で公演する。
世界各地でのコンサートではクレーメルが一緒に演奏するが、ウラディーミル・アシュケナージ、サイモン・ラトル、ミッシャ・マイスキー、ヨーヨー・マら有名な指揮者やソリストとも共演している。
クレーメルは「私が強調するのは非常に単純なことで、“ありきたりの楽団”にならないことだ。楽団員にはいつも、リスクに立ち向かい、冒険し、レパートリーを広げ、真似ではなく解釈せよ、と指導している」と語る。
2002年には、『アフター・モーツァルト』のレコーディングでグラミー賞を受賞した。06年には、ザルツブルクで一晩にモーツァルトのヴァイオリン協奏曲全5曲を演奏、そのライブ録音が今年7月に発売され、話題を呼んだ。
クレーメルは「資金不足で実現できない企画も多いが、今回の奨励金で一つか二つの企画を実行できる。楽団の真髄を示す冒険的な企画にしたいと意気込みを語った。 

イタリア青少年オーケストラ

  • 選考担当: ランベルト・ディーニ国際顧問

フィレンツェ郊外のフィエーゾレ音楽学校に所属し、プロのオーケストラ演奏者を養成するための訓練部門。1984年にリッカルド・ムーティの指揮による演奏会で正式に発足した。オーディションに合格した18歳から27歳までの70~90人が2年間、訓練を受ける。受講料、寮費、食費は無料。世界的指揮者の指導を受け、訓練期間中、欧州各地へのコンサートツアーや、一流オーケストラとの共演も行なう。卒業生1000人以上がイタリアとヨーロッパのオーケストラで活躍。奨励金は、学生のための施設、サービス向上に使用された。

ウエスト・イースタン・ディヴァン・オーケストラ

  • 選考担当: レイモン・バール国際顧問

イスラエル人ピアニスト兼指揮者、ダニエル・バレンボイムと、パレスチナ系アメリカ人学者のエドワード・サイードが1999年、イスラエルとアラブ諸国の人々の相互理解を深めるため、双方の若手音楽家を一緒に訓練するワークショップを開催。これを基にオーケストラが結成された。2005年には、パレスチナ自治区ラマラで歴史的なコンサートを開催。スペイン・セビリアのバレンボイム・サイード財団が運営を担当。参加資格年齢は14歳から28歳。奨励金は、エジプト、シリア、イラン、イスラエルの団員の奨学金として使われた。

 

ベネズエラ青少年・児童オーケストラ全国制度財団

  • 選考担当: ウィリアム・ルアーズ国際顧問

ベネズエラの貧困地域の子供たちをクラシック音楽の練習、演奏を通じて教育する財団で、元文化大臣のホセ・アントニオ・アブレウ博士が1975年から始めた。2歳半以上の児童・青少年25万人が参加、全国に計210のオーケストラを擁する。「音楽は不幸を希望に変え、子供を犯罪から救う」という信念の下、無償で楽器を与え、訓練する。優秀な生徒にはカラカスでの住居、生活費を提供する。奨励金は楽器購入費などに充てられた。2008年12月、傘下のシモン・ボリヴァル青少年オーケストラが来日公演を行なった。

草津夏期国際音楽アカデミー(日本)

  • 選考担当: 中曽根康弘国際顧問

アジアの若い芸術家に世界最高レベルの音楽家から学ぶ機会を与えようと、1980年、群馬県の草津で発足。公募による受講生は台湾などアジアからも来日。毎年8月、草津国際音楽祭の期間中の2週間にわたって、世界的ソリスト、ウイーン・フィル、ベルリン・フィルなどのトップ音楽家を講師に迎えて、講習会と演奏会を開く。受講生は計6000人を越え、第一線で活躍する音楽家を多数輩出。奨励金でアジアから若手演奏家を招き、2006年、東京で記念コンサートを開催した。

中央ヨーロッパ青少年サウンド・フォーラム

  • 選考担当: リヒャルト・フォン・ワイツゼッカー国際顧問

ドイツ青少年サウンド・フォーラム(2000年創設)が2003年、チェコの若手音楽家と協力して、ユダヤ人強制収用所のあったテレジンでコンサート開催したのをきっかけにスタート。これにポーランドが加わり、3カ国にまたがる組織へと発展した。参加メンバーは必要に応じて集まり、短期間に集中的な練習を行い、その後、コンサートツアーに出かける。奨励金は2005年春、ナチスに対するレジスタンス運動が展開されたポーランドのクライザウでコンサート開催などに使用された。また、同年9月には来日公演を行った。

デ・ソーノ音楽協会(イタリア)

  • 選考担当: ウンベルト・アニエリ国際顧問

イタリア・ピエモンテ州の若い音楽家たちを支援しようと、芸術監督のフランチェスカ・カメラーナさんが1988年、州政府と同州の企業の協力でトリノに設立。若い音楽家に奨学金を出して支援、これまでに150人が奨学生となり、世界各地の音楽学校で研鑚を積んだ。一流オーケストラのコンサートマスターや首席奏者などを多数輩出。無料コンサート、音楽論文集や音楽家の写真集の出版も手がける。奨励金は50人以上の奨学生のヨーロッパやアメリカの留学資金に充てられた。

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