現代アメリカ映画界を代表する巨匠。アメリカ社会の光と影を鮮やかに描いた名作を数多く手掛けてきた。
父親のカーマインはNBC交響楽団のフルート奏者で、幼いころから恵まれた芸術環境で育った。8歳で8ミリ映画を撮影、レモン水の料金をとって近所の人に見せたという。
ニューヨークのホフストラ大学で演劇を学んだ後、カリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)の映画コースに進み、在学中からロジャー・コーマンのもとで低予算映画の仕事に携わる。「ハリウッドの有名監督になろうとか、大作をつくるつもりはなかった。オリジナルの脚本による、極めて個人的な映画を目指していた」と振り返る。
マフィア社会とコルレオーネ・ファミリーの実態を描いた『ゴッドファーザー』(1972)は、魅力的なストーリーと衝撃的なシーンが話題を呼び大ヒット、アカデミー作品賞、脚色賞、主演男優賞の3部門で受賞した。続いて、1974年にアカデミー賞6部門を獲得した『ゴッドファーザー PartⅡ』とカンヌ国際映画祭パルム・ドールに輝いた『カンバセーション...盗聴...』を制作し、メジャー監督の仲間入りを果たす。
ベトナム戦争をテーマにした『地獄の黙示録』(1979)でもパルム・ドールを受賞、不動の地位を確立したが、当初は「制作の話に耳を貸す人はいなかったので、銀行に行き、稼いだ全額と不動産を担保に映画制作を保証してもらう交渉をした」と言う。
その後、膨大な借金を抱えたものの、制作意欲が衰えることはなく、『ランブル・フィッシュ』(1983)、『ゴッドファーザー Part III』(1990)、『ドラキュラ』(1992)など話題作を次々に発表。制作会社「アメリカン・ゾエトロープ」(1969年設立)を通じて、実験的なスタイルを追究し続け、ジョージ・ルーカス、スティーヴン・スピルバーグ、マーティン・スコセッシなどと共に"ハリウッド新世代"の先頭に立った。
『コッポラの胡蝶の夢』(2007)、『テトロ 過去を殺した男』(2009)、『Virginia/ヴァージニア』(2011)の最近作は「オリジナル脚本による低予算映画」という若い時代の原点に復帰。現在は、三世代にわたるイタリア系アメリカ人を描いた「野心的な大作」を執筆中という。
黒澤明監督を尊敬し、最近作には小津安二郎監督の「固定したカメラワーク」を適用するなど、日本映画からも大きな影響を受けている。
35年前からカリフォルニア州ナパヴァレーでワイン醸造も行っているが、最近、名門ワイナリー「イングルヌック」を復活させるなど、映画人としてだけでなく、ワイナリー・オーナーとしても活躍している。